MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

産める国フランスの子育て事情(牧陽子)<教養>

 『産める国フランスの子育て事情』(牧陽子)

 今年から月1冊の未開拓分野を読もうと始めた試み。

 投稿が遅れましたが4月に読んだのはこの1冊です。

 日仏両国で出産・子育てを経験した著者(新聞社の記者)が、30名以上のフランスの母親に取材し、フランスの高い出生率の裏側を紹介した書籍で、最後に、日本の子育て感の現状が述べられています。

 

(本書の中で印象に残ったところ)

【歴史的背景】

・1960年代まで、フランスの家族政策は専業主婦を推奨。70年代後半から働く女性支援に切り変わっていく(好況期で労働力が求められたことが背景)

・72年:婚外子について、嫡出子との法的平等が認められる。

・74年:世界で初めて父親も取得できる有償の育休制度開始。

・00年:法定労働時間が39時間から35時間に短縮。

 

【現状】

出生率:2.0前後で推移(日本:1.4前後)

・いわゆるM字カーブは1980年代に無くなり、緩やかな台形を描く

(30~34歳の労働力率79%。日本:61%)

 

【学校】

・学校が無い水曜日にはなるべく、子供と過ごせるように有給休暇、週4日勤務などを使って時間を確保する習慣がある。フルタイム勤務の場合は、子どもが学校で過ごせる制度もある。

・延長保育や自習時間確保で午後6時頃まで学校が面倒を見てくれる

・保育園のほか、保育ママ(子育てがひと段落した女性に預ける。約66万世帯が利用)やヌヌ(自宅に来て子どもの世話をしてくれる)を利用する家庭も多い。いずれも国からの助成がある。

・保育園や一次託児所は積極的に利用する風土。6カ月になれば愛着の基盤は固まるので赤ちゃんは保育園に、母親は仕事にという感覚。「預けたらかわいそう」という発想ではなく、むしろ、「子どもの発達や成長にプラスになる」という風にとらえられている。一般的に、1歳くらいになれば集団に入れて社会性を伸ばすという感覚がある(「3歳までは母親の手で」と言われる日本とは異なる)。

 

【夫婦】

・06年には、第1子の半数超は結婚していないカップルから生まれている(ただし、認知の無い子は3%にすぎない)

事実婚は、簡単な手続きで課税・社会保険・相続などの保護を受けられる。

・赤ちゃんも個室でひとり寝する慣習(夫婦の目の行き届くところに寝かせることが多い日本とは異なる)。これは、夫婦の寝室のプライバシーを確保することにつながり、2人目、3人目をつくる必要条件でもある。

 

【働き方】

・パートタイム労働は24%と少ない(日本:40%)。

・週4日勤務の正社員という形態が多くとられている(これもパートタイムに含まれる。労働法による短時間勤務の一種で雇用主は拒否できない)。学校が休みの水曜日に子供との時間にあてるケースが多い。7歳未満の子供を持つ働くママの4割がパートタイム。

・有休は法律の権利であり取得しやすい(法律はあるが集団への配慮や習慣が重視される日本との違い)

・1人目の出産なら育休はとらずに仕事を続けるのが多くのフランス人女性の現状。職場復帰の時期は、3カ月以内が最も多い。

・フランス人はバカンスのために働く。平日はさっさと仕事を切り上げ、夏のバカンスは2週・3週と山や海に滞在。町は閑古鳥が鳴く。休日出勤はしない。年5週の有給休暇はすべて消化する。

 

【著者が諸外国と比較して日本社会について感じていること】

■ 男女の働き方

 夫婦で外出するどころか、夜の食卓を家族で囲んだり、子供と過ごす時間を持てないほどの男性の働き方。その結果、女性が一人で担うことになる子育て。個人の努力ではどうにもならない部分がある。

 ■ 3歳児神話

 日本では8割の助成が「少なくとも子供が小さいうちは母親は仕事を持たずに家にいることが望ましい」と考えている。働く女性の6割が最初の出産を機に仕事を辞めている。もう少し早く子供の自立の準備を始める社会もあるのに‥。

■ 母子密着の育児

 極端に子供中心の子育てになってしまっている。母親が子供の欲求に際限なく答えることが求められている。「子どもを叱れない」「母親の疲労や育児不安」「欲求をコントロールできない、我慢できない子ども(→キレル、学級崩壊の原因にも)」が増えているのも母子密着の影響が大きい。

■ 父親の不在

 子どもとの接触について、日本には、母親の不在には厳しいが、父親は仕事が理由であれば何でも許される、極めて寛容な風潮がある。これは、企業中心社会で子育て期にある30代の残業時間が最も長いなど、個人ではどうしようもない部分もある。一方、週末のスーパーなどをみると、若いパパの子育て意識は変わりつつもある。

 

 本書の締めくくりとして、著者は、「延長保育を充実させたり、病児保育を増やしたりするよりも、まずすべきなのは、親が当たり前に子供と過ごせる社会にすること。家族そろって夕飯の食卓を囲み、子供が病気のときには親が安心して仕事を休める、そんな社会が実現したら。そして、女性がもっと自由に自分らしく生きられるようになれば。もっと子供を生み育てやすくなるに違いない。そう考えるのは、私だけではないはずだ」と述べています。

 

 私が大学を卒業した90年代に比べれば、仕事とプライベートのバランスは改善されてきていると感じます。しかし、企業によって、個人によって、考え方や取組状況はマチマチです。

 確かに、個人ではどうしようもない面もありあすが、一方で個人でできることがたくさんあることも事実。

 「仕事とのバランスをとりながら、自分には何ができるのか」、そんなことを考えさせられた1冊でした。

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