オペレーション戦略Day5(トヨタ生産方式)の復習として読んでみました。
本書は、昭和57年に出版された『大野耐一の現場経営』と平成13年の同書新装版を再編集してまとめられたものです。
トヨタ生産方式の根っこにある発想が大野さんの語り口調で書かれています(ご本人の講演のDVD付き)。
(本書で印象に残ったところ)
〇錯覚が能率を下げる
まず、人間は間違った認識や錯覚がたくさんあるということを念頭に置いておくこと(本書を貫く考え方)。人間が錯覚を認めることが無かったら説得も難しくなる。知識人になればなるほど、物事をいろいろ考えるので錯覚しやすい。
■ 量産は安いという錯覚
いくつ作った時が安いかは大体決まっている。適正な能力を超えた生産はかえって原価(人件費など)が高くなる。機械を増設したとしても、適正生産量が上がり、その域に達するまでは原価が高くつく。
■ 機会損失を恐れない
「逃げた魚は大きい」と思う気持ち。これは錯覚。何か損をしたような気分になるが、実害はない。機会損失を恐れるあまり、実損損失を忘れがちになる。
〇算術計算の盲点(①~③は同じことを言っているようだが…実は)
①売価ー原価=利益
売価は決まっている。だからどうしたって原価を下げるしかない。原価を下げた分だけ利益が出る(→大野さんらIEの方達の発想)
②利益=売価ー原価
原価はどうしても安くならないので、付加価値をあげて高いものをやろうとする発想
③売価=原価+利益
原価は計算して正確なものを出せばよい。お客さんは納得しないかもしれないが、原価はいくらいくらかかっているんだから、このぐらいで買ってもらはないと仕方ないという発想
〇ジャストインタイム
「要るものを要るだけ、いかに安くつくるか」。「いかに安く」を先頭に持っていくと作りすぎたり、作り足らなかったり、タイミングが合わないとか、いろいろなことになってしまう。
〇自働化
作業が遅れたり、不良が出れば、どんどん止める。最初のころは、従業員はくたびれたら止めていた。組長なり班長は、なぜ、従業員はくたびれるのか、どうやったら悪い部品を付けないようにできるかを考える。最後は「止めたくても止められない」ようなことを考えなければならない。
〇改善の順序
「作業改善→設備改善→工程改善」
先に機械を入れると、機械に使われる。あの機械を買ってくれなきゃ、改善なんてできないと言っている人に限って、どんな機械を与えても改善なんてできない。
〇可動率と稼働率
どちらのカドウリツを上げなければならないのか、分けて考えること。
・可動率:機械を動かすことができる割合(機械故障で動かない‥など)
→可動率を高めるには、機械の予防保全、段取り替えの短縮化など。
・稼働率:実際に機械が動いている割合(仕事がなくて動かない‥など)
〇生産技術と製造技術
製造技術あっての生産技術。使い方を知らねばならない。この2点も分けて考えること。
・製造技術:つくり方、技術(例えば、そのハサミを使ってどうやってうまくものを切るのか)
・生産技術:どうやったらそれができるか(例えば、これを切るにはどのハサミがよいか)
本書は、人間には多くの錯覚があり、その錯覚をどう防ぐかという点に着目しているところが面白いと思いました。
「そんなの当たり前!」という常識に疑問を投げかけるというのは、普通はできない(気づかない)と思いますが、この点を掘り下げたところに素晴らしい仕組みの原点があることを知りました。