『諦める力』(為末大)(〇)
あすか会議(グロービス経営大学院のビジネスカンファレンス)に登壇予定の為末さんの書籍を読みました。
ネガティブなイメージが色濃い「諦める」という言葉。
「諦める」の語源は、「明らめる」だそうです。自分の才能や能力、置かれた状況を明らかにして、よく理解し、今この瞬間にある自分の姿を悟る。決して、終わる、逃げるということではない。
100メートルから400メートルハードルに転向し、一時、諦めた、逃げたという強い葛藤に見舞われた著者がこれまでを振り返り、諦める大切さを深堀りした内容で、とても感慨深い一冊です。
(本書で印象に残ったところ)
〇憧れの罠
純粋な憧れだけである人を目標に努力した場合、それが自分の成長を阻害する要因になることがある。努力することで進める方向は自分の能力に見合った方向。
〇戦略
人間は変えられないことのほうが多い。だから、変えられないままでも戦えるフィールドを探すことが重要(ドメインの問題)。戦略はトレードオフ。諦めとセットで考えるべきもの。ただし、手段は諦めても良いが、目的を諦めてはいけない。単なる「逃げ」になる。
〇犠牲の対価は成功ではない
一生懸命やったら見返りがあるという考えは危険。「やればできる」「夢はかなう」「きみには才能がある」という言葉。励ましのやさしさで辞める時期を逸してしまう。ダメなものはダメと言ってくれる人は必要。
〇ただ「負けて悔しい」だけではダメ
「なぜ、負けたのか?」「どうすれば良かったのか?」「どうしようもなかったことなのか?」を問うことが大切。
陸上生活で、諦めないことにより代償を払ってきた人をたくさん見てきた著者の切実な思いを感じました。その分野で抜きんでる人はほんの僅か。諦めないという言葉が美学のようになり、逆にいろいろな可能性を奪うことになる。自分に合った道を逃さないよう、客観視する大切さを学びました。
最後に、本書の締めくくりがとても心に響いたので、ご紹介します。
(以下、本文より)
「夢はかなう」「可能性は無限だ」
こういう考え方を完全に否定するつもりはないけれど、だめなものはだめというのも一つのやさしさである。自分はどこまでいっても自分にしかなれないのである。それに気づくと、やがて自分に合うものが見えてくる。
何かを真剣に諦めることによって、「他人の評価」や「自分の願望」で曇った世界が晴れて、「なるほどこれが自分なのか」と見えなかったものが見えてくる。
続けること、辞めないことも尊いことではあるが、それ自体が目的になってしまうと自分という限りある存在の可能性を狭める結果にもなる。
前向きに諦める。そんな心の持ちようもある。