『経営の行動指針』(土光敏夫)(〇)
IHIの元社長で昭和63年に他界された土光さんの経営語録100で、昭和45年に出版された書籍です。語録のほとんどは、人に関するもので、時代は変われど、変わらない経営の本質を感じることができました。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇活力=知力×(意力+体力+速力)
意力は意志・根性・やる気の源泉。
速力は仕事のコンテンツよりタイミングを重視する態度
〇組織は上下のひな壇ではなく丸い円と考えよ
組織の本当の機能は丸い円関係で表したほうがよい。真ん中にトップ、その周りに役員、その次の輪に事業部長‥。それぞれの小円を内に含みながら会社全体の大円ができている「異中心同円」である。小円はみな大円に向かって求心的になっている。さらにすべての円は制止しているのではなく、回転していると見る。
〇組織活動の3つの危険な言葉
①「自分は聞いていない」‥組織のセクショナリズムを端的に表す
②「そんなこと言ったかな」‥組織の無責任態勢を端的に表す
③「誰かがやってくれるだろう」‥組織内の他者依存を端的に表す
〇ルールはルールとして重んぜよ。ルールが悪ければルールを改める勇気を持て
規程が本文よりも但書で運用されるようになると、もはや守られない既定の前触れ。死せる規程、守られざる規程は、ルール軽視の風潮を生む。規程がはじめからない場合よりも悪質である。
〇「社長曰く」のオウム返しは不可
各段階は、上からきた情報をうのみにしないで、自分の言葉で翻訳することが肝要
〇問題を見つけ、問題を作りだせ
問題がないのは、望ましいことではなく、恐ろしいこと。その状態は徐々に組織を蝕み、死に至らしめる。
〇問題への態度がすべてを決する
「できない」「無理」「むずかしい」という弁明‥。大切なのは、その問題は、どう解決できるのか、どうやったら達成できるかを考える前向きの態度である。
〇60点主義で即決せよ
スピードこそが生命。完璧を負っている間に時機を失する。
〇仕事の報酬は仕事である(藤原銀次郎)
どんな仕事であろうと、それが自発的主体的に行動できるような仕組みになってくれば、人々はそこから働きがいを感ずるようになる。
〇人はその長所のみとらば可なり
チームワークと言われるものも各人の長所をうまく組み合わせることに他ならない。一人ひとりの長所が異質的であるほど、チームワークの相乗効果は高い。そのためには、個性ある人を尊重すべきだ。
〇教育はチャンスにしか過ぎない。これを生かすも殺すも本人しだい
真の教育は自己開発にその基礎をおいている。この自己開発をいいことにして、上司の部下に対する教育責任を放棄することは許されない。上司は部下が自己開発したくなるような環境、部下が自己開発せざるを得ないような環境を作る義務がある。
〇穴を深く掘るには幅がいる
本当に深まるためには、隣接の領域にも立ち入りながら、だんだん幅を広げてゆかねばならない。深さに比例して幅が必要になる。つまり、真の専門化とは深く広くすることだ。
〇会社全体がシステムという概念
「何ができるかではなく、何をすべきか」
「インプットからアウトプットを導きだすのではなく、アウトプットを先に決めてそれに合うインプットを選ぶ」
「不確定要素を攪乱因子と見ず成長因子と見る」
「同一系列の縦の連結よりも異系列の横の連動を重視する」
「組織を職能の分割と見ず、機能のネットワークと見る」
〇本部は前線を振り向かせるな
前線がいささかも危惧の念を抱かぬような優れた製品を提供し、前線が雑務から解放されるようなきめ細かいサービスを提供し、前線をして後ろを振り向かせないことこそ、本部の任務というべき。
〇棒高跳びのバーは常にあげられてゆく
向上する仕事には必ず困難がつきまとう。この困難を積極的に受け入れ困難に敢然と挑戦し困難を努力しつつ克服してゆく。その失敗を将来への踏み台にする。バーは再び上がってゆくのである。棒高跳びの選手は3度失敗すればフィールドから去るが、ビジネスパーソンは永遠に立ち去ることができない。
ご自身も含めビジネスパーソンにとても厳しい印象でした。同時に人をやる気にさせることに熱心で、そのため、会社のポジションが上がるほど厳しさが増すという感じです(重役に推薦するときに本人を呼んで「家庭を犠牲にするくらいの覚悟があるか奥さんとよく相談してほしい」と1~2週間の猶予をとったそうです)。
語録の中では、「本部は前線を振り向かせるな」は耳が痛い‥。また、ビジネスパーソンにとっての目標設定・達成の繰り返しを棒高跳びのバーに例えるとは、人に説明するときに、とても分かりやすいと思いました。