MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

史上最大の決断(野中郁次郎、萩野進介)

 『史上最大の決断』(野中郁次郎、萩野進介)

 上司から推奨されたので読んでみました。

 ノルマンディー上陸作戦の史実を中心に、アイゼンハワーなどの指揮官の実践知のリーダーシップ論と戦略論が書かれているリーダーシップ本です。

 

(本書で印象に残ったところ‥アイゼンハワーのリーダーシップ)

〇運命の上司との出会い

 上司から叩き込まれたのは、ナポレオン、シーザー、タキトゥスマキャベリ南北戦争史からプラトンニーチェシェイクスピアまで、軍事や哲学、文学などあらゆる古典を読むこと

 

〇実践知リーダーの6つの能力

 実践知は実践と知性を総合するバランス感覚を兼ね備えた賢人の知恵。予測困難でカオス状況でこそ真価を発揮し、新たな知恵や革新を持続的に生み出す未来創造型のリーダーシップに不可欠な能力。

①善い目的を作る能力

 上陸当日の選管の中でのメッセージに、「大いなる聖戦」「自由世界に暮らす我々に安全をもたらすために」「この偉大で高貴な企てに全能なる神が祝福を与えんことを」といった人を鼓舞する理想がちりばめられている。

 (幼馴染への手紙の中から)人間の偉大さは思考や努力である領域において卓越するか、重大な責任を負った役割をうまく遂行して未来に足跡を残すかのどちらかで、偉大さの質は、ビジョン、誠実さ、理解力、表現力、人格によって担保される。

②ありのままの現実を直観する能力

 現実をうまく捉えるには、個別具体の微細な経験を総合するプロセスが不可欠。部分と全体を常に往還する。アイゼンハワーは、1台の戦車をボルトやナットに至るまで分解し再び組み立てた。戦車の設計まで研究し、戦車を核に据えた自動化部隊が米国全土を横断できることを確認した。地震でも飛行機パイロットの免許を取得し、350時間以上飛行。上陸日を決めるにも毎週月曜日に向こう3日間の天気を予想させ、その的中率を週後半で確かめる方法で気象チームの技量を試した。

③場をタイムリーに作る能力

 明るい性格の楽観主義者で人の話を聞くのが大好き。前線訪問を欠かさず、兵士たちと忌憚の会話に興じた。司令官と言えども安全地帯にいつでも身を隠して無事でに過ごしているわけではないことを知らるのが重要だと考えていた。場づくりの基礎となる人事に徹底的にこだわった。

④直観の本質を物語る能力

 アイゼンハワーは、歴史的コンテクストとして隠喩や物語を作る能力に長けていた。戦略は物語である。筋立て(プロット化)には、ロマンス劇、風刺劇、喜劇、悲劇などがあるが、最も重要な筋書きのテーマは「善の勝利」である。 

⑤物語を実現する能力(政治力)

 リーダーシップを「目標達成に向けて人々い影響を及ぼすプロセス」と広く定義すると、人間が持つ社会的パワーの基盤は次の6つの力で構成される。

・合法力、報償力、強制力、専門力、親和力、情報力

 アイゼンハワーは、この中で特に親和力に優れていた。人間的な資質。誰とでも気さくに話し、威張らず、誠実であり、想像を絶する大きな責任を進んで引き受ける態度など。

⑥実践知を組織する能力

 自分で全てを抱え込もうとせず、各組織にいる優れた人材をうまく使った。信用のできる人物にはすべてを任しきってしまう。だから彼の部下は、たいていのことは自分たちの裁量で処理してしまう。一方、最善を尽くしていない人には容赦なかった。物事を任せるに足る人物は注意深く選んだ。縦4インチ、横5インチの白いカードを備忘録代わりに使い、そこには、元気があって独自の見解を持っている、彼が将来を有望と目した若い将校たちの名前と特徴が書かれていた(アイゼンハワーを登用したマーシャルも黒い手帳を持ち歩き、これはと思った人物の名前を記していた)

 

 歴史の読み物としても分かりやすく記述されており、戦略とリーダーシップという観点では経営本でもある面白い書籍だと思いました。現代のリーダーシップにも十分応用できます。

 これを機に、まだ読んでいなかった『失敗の本質』(野中郁次郎ほか)も読んでみようと思います。

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