『ピクサー流創造するちから』(エド・キャットムル、エイミー・ワラス)(〇)
『トイ・ストーリー』や『ファインディング・ニモ』で有名なピクサー・アニメーション・スタジオの共同創設者による著書です。
創造性を阻害するものは、たくさんあるが、きちんとしてステップを踏めば創造的なプロセスを守ることができるというのが本書のテーマ。創業から現在まで、創造的なアニメーションを提供し続ける組織・人・文化をつくる経営者の思いが随所に記されており、とても興味深い内容でした。
ピクサー社は、ルーカスフィルム社の一部門をスティーブ・ジョブズが買収して設立したことでも有名です。ジョブズの話もたくさん登場します。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇著者が特に重視しているのが、不確実性や不安定性、率直さの欠如、目に見えないものに対するメカニズム。自分に分からないことがあることを認め、そのための余白を持っているマネジャーこそすぐれたマネジャー。そうした認識を持たない限り本当にはっとするようなブレークスルーは起きない。知らないことがあることを認めて、人は初めて学ぶことができる。
〇生命を吹き込む
根本的な間違いを正すよりも問題のもつれを解きほぐすことの方が難しい。解決しようとしている問題を樫の木だとすると、その周囲に落ちたドングリから発芽した、諸々の問題がある。こうした若木は、樫の木を切り倒した後にも残る。
〇ジョブズによる絶妙なタイミングのIPO
『トイ・ストーリー』公開前に株式公開すべきというジョブズ。「2~3本撮ってからにしよう」という経営陣。ジョブズが語った理屈は、『トイ・ストーリーが』ヒットしたとする。そうなるとディズニーが恐るべき魔物(ライバル)を作ってしまったことに気づく。『トイ・ストーリーが』が公開されるや否やパートナーとしてピクサーを手元に置こうとするだろう。なら、有利な条件で、具体的には興行収入を折半したい。そのためには、我々自身で制作予算の半分を用意できなければならない。その大金を手に入れるためにはIPOしかない‥。今回もその理屈が勝った。
〇ピクサーのクリエイティブを特徴づける基本的考え方
①物語が一番偉い(Story is King)
②プロセスを信じよ(Trust the Process)
→アーティストには遊びを、監督には権限をあたえ、社員の問題解決能力を信頼する。
〇ブレイントラスト
社員がアイデアや批評を率直に交換できるのが健全な創造的文化の証。卓越した作品づくりに向けてスタッフが忌憚なく話し合いをするための要となる制度
〇失敗と恐怖心
企業が失敗をマイナスのものとして捉えているか判断する簡単な方法。「犯人探しをしているのは失敗を非難する企業文化」。問題を一つ残らず防ごうとするのではなく、スタッフの善意を信じ、彼らが問題を解決したいと思っていると信じるべき。責任を与え、失敗させ、自ら解決させる。恐れには必ず理由がある。リーダーの仕事は、その理由を見つけて対処すること。マネジメントの仕事は、リスクを防止することではなく、立ち直る力を育てること。
〇新しいものを守る企業文化
最初からいいものをつくる必要はない。なぜなら、それが創造性に欠かすことのできない、新しいものを守る企業文化を確立する唯一の方法だと思うからだ。
良いアイデアを凡庸なチームに与えれば、アイデアを台無しにし、凡庸なアイデアを良いチームに与えれば、それをテコ入れするからもっと良いアイデアを返してくれる。良いチームをつくれば良いアイデアに恵まれる。
〇変化と偶発性
偶発性を怖れるのではなく、それをありのままに受けとめ、プラスになるように持って行く。予測不能性は、創造性が生まれる土壌である。
〇想像する環境
社員に創造性を発揮させるためには、経営陣がコントロールを緩め、リスクを受け入れ、社員を信頼し、彼らの行く手を阻むものを取り除き、不安や恐怖をもたらすあらゆるものに注意を払わなければならない。
〇著者の知るスティーブ
スティーブは効果のないものを手放すことに関して驚くほどの才覚に恵まれていた。けれども人と言い争った後に、相手が正しいと納得したら、その瞬間に考えを改めた。自分が一度素晴らしいと思ったからといって、その考えに固執する人ではなかった。
ポイントが多すぎて書ききれませんでした。。。
道なき道を行く、創造の世界を生きる人たちをマネジメントして、成果を出すために経営者が考えていることは、やはり「人」。迷い、悩み、不安を抱える社員から想像力を引き出すためのマネジメント。その要諦を感じることができる一冊でした。