『研究開発マネジメント』(浦川卓也)(〇)
テクノロジー企業経営の参考図書として読んでみました。
研究開発の人・技術・カネをどうマネジメントするかという実務書です。私のように異業種の初心者が読むには、ちょうど良いレベルでイメージも湧きやすく、理解促進に役立つ書籍でした。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇チェーン・リンクド・モデル(非線形モデル)
技術革新の発端が新しい技術シーズの発見や発明ではなく市場の発掘にある。
基礎研究からの化学的知見や技術シーズは、技術革新を進めるうえでの絶対的な条件ではない。市場ニーズを的確にとらえ、それを新技術・新商品に具現化していく創造的な活動が、技術革新の過程において重要である。
〇技術経営と研究開発マネジメントの違い
技術にかかわるマネジメントを、企業経営の視点に立って全社的な観点から行うのか、研究開発部門あるいは研究所の運営を中心に行うのかにある。研究開発マネジメントの究極の目標は、前任者の遺産に安住することなく、明後日に咲く花のタネを撒く、”絶えず成果を生み出す体質づくり”。
〇研究開発戦略を策定する上での技術経営課題
①経営戦略と技術戦略、とくに研究開発戦略との整合化
NBU(New Business Unit)の構築‥単品を核(コア)としてその周辺に商品群を形成し、魅力ある新規事業単位が構築できないか。
②将来に向けたコア・テクノロジーの強化・拡充・革新
企業環境の変化を先取りして、経営戦略に必要なコア・テクノロジーを予め準備し、いかに強化・拡充し革新するか。コア・テクノロジーは、自社が得意とする競争力の強い技術領域(群)。コア・テクノロジーの確立には、長期間を要し、全社の技術資源を集中することが必要。「何のためにその技術を使うのか」という技術の利用目的と使い方によって技術力の評価は大きく異なってくる。技術の需要を創り出すマーケティング能力によって、その企業の技術力が決まる。
組織が肥大化するにつれて、また分社・カンパニー制が進展するにつれて、コア・テクノロジーはタテ割り組織ごとに散在する傾向にある。
③外部資源の活用戦略とオープン・イノベーション
〇テーマ企画
研究開発の成否は具体的なテーマ企画の良否によって決まると言っても過言ではない。テーマ企画とは、目標とする技術・商品の事業化へのシナリオ作りともいえる。社内外の技術やマーケットの動向をもとに、ある種の研究開発成果をイメージするところから始まる。良いテーマとは、”社内外にインパクトのあるテーマ”(①社内外のニーズとの整合性、②オリジナリティーと競争力、③タイミング)
〇テーマ企画の質を高める
テーマ企画=仮説の設定(技術の需要想定)×仮説の検証
予想されるマーケット・トレンドの中でどのようなニーズを想定し、どのような具体的な需要をイメージしてテーマを企画するか、その発想と検証の質で企画の質が決まる。
〇アイデア発想のパターン
①在来の技術・商品・サービスの機能を見直し、新しい価値に気づく
②在来の技術・商品・サービスの本来あるべき姿を追求する
③在来の技術・商品・サービスの見直しというようりは、むしろ、その域を越えた今までにはない技術・商品・サービスを発想すること
〇ニーズを技術・商品コンセプトと開発目標に翻訳する
翻訳は、開発・企画担当者のユーザーへの思いを実現する活動。「さわやかな味」とは何なのか。ユーザーの言葉を解釈し、技術の言葉に翻訳する必要がある。1つのユーザーの言葉を複数の技術の言葉に翻訳しないと、ユーザーの要求を満たさないことも多い。マーケティング・マインドとは、ユーザーの立場に立って、技術・商品の価値を考えられる感受性。
〇研究開発の推進・軌道修正マネジメント
「ステージ・ゲート・プロセス」‥いくつかの関門を設けて進捗状況を評価し、それ以降の推進可否を判断する方法。
【テーマ推進の主要なマネジメントポイント】
①目標達成のための実施計画の策定
②実施実績や環境変化の現状と比べて、企画段階に設定したシナリオや目標がどう狂ってきているかの企画・現状差異分析と進捗度評価
③「良いテーマ」に浮上させるためのKSFの見直しと方策
④スピードアップと効率化
⑤研究者のやる気の方向付けと維持
〇研究開発投資の効率化
①「オルセンの式」‥R&D収益指標=(収益見積額×成功確率)/R&D費用見積額
・収益見込額(新製品):売上高の3%×(生産財5年、消費財3年)
・収益見込額(改良製品):売上高の2%×(生産財3年、消費財1年)
②マネジメント方式
・同時並行開発
・社内ベンチャー・専任プロジェクト方式
・要素技術開発の同期化(重要なボトルネック技術の開発を集中的に先行させ、やればできる技術開発を後に回して開発の同期化を図る)
この分野は文系出身者にとって、苦手意識のある分野もあり、ある意味避けていたことが、基本書を読むことによって痛感しました(理解度が低い)。技術出身の経営者とお話するときには、研究開発者の立場に立った目線が必要であり、コミュニケーションギャップを起こさないためにも、研究開発の視点を学ぶことは必要ですね。
今回は、研究開発マネジメントの概要がイメージでき、この分野へのハードルが下がったことが収穫でした。