『労働法の仕組みと仕事が分かる本』(向井蘭)
人事・労務担当者が最低知っておくべき労働関係法の基本事項を、実務でイメージが湧くように書かれた実務入門編です(経営者サイドから見た本です)。
労働関係法は、人事担当だけでなく、経営者や管理職も当然知っておかないといけない知識です。私も昔に社労士の勉強をして以来、1~2年に1度は、さらっとでも復習するようにしています。法律の感覚を持ち合わせていると、「おや?」という気づきがあり、自分で調べたり、専門家に相談するきっかけになります。逆に知らないと、法令違反になったり、従業員とのトラブルに至るという明暗を分けることになります。知っているか、知らないか。法律はそういう怖い面がありますね。
(メモ‥本書より)
〇労基法違反の賃金支払い命令は、裁判所のみ可能。労基署は行政指導。
〇採用(年齢制限):特定の年齢を限定して募集してはダメ。具体的な業務を明示して、事実上募集対象者を絞る工夫が必要。
〇採用(健康状態):業務に関連する項目について必要な範囲であれば、当然認められる。入社前健康診断も予定される労務提供の内容に応じて可能(裁判例)。
〇内定:雇用契約は成立しているが、「留保付解約権」を有している状態。他社の内々定を断ることを条件とすることは、実質的に内定。内々定は、他社への就職活動を禁止していない状態。内定取り消しの補償額は、月給の2~6カ月分程度。
〇期間雇用者の雇い止めが無効になる場合
①期間を定めているものの、契約書がない、契約更新手続きを怠っている。
②契約が更新されると合理的な期待を抱かせた場合。
〇通勤手当:賃金として取り扱われる。従って、賃金支払いの五原則が適用され、毎月一回以上の支払いが必要。3カ月、6カ月単位で支払うなら初月に支払う。
〇降格:①役職から外す(裁判では使用者が勝つことが多い)、②資格等級を下げる(実質的に賃金の引き下げに該当するため、裁判では使用者に厳しい)
〇住宅手当・家族手当:一律支給の場合は、割増賃金の時給単価から外せない。
〇退職金:パート・アルバイトに支払わない場合、就業規則に「従業員(正社員よりも所定労働日が短い従業員、時給の従業員、期間雇用者を除く)」と定めること。
〇割増賃金:法内残業は割増分の支払い義務はない
〇裁量労働制:業務遂行の手順や時間配分等について、使用者が具体的な命令をすることは禁じられている。
〇46通達:労働時間は労働者の自己申告ではなく、会社がきちんと管理すること
〇時間外労働:「30分未満の残業代は切り捨て」と「30分以上の残業代は切り上げ」は、セットで導入しなければならない。時間外、深夜、法定外休日は25%増し、法定休日は35%増し。
〇定額残業代の導入は、不利益変更に当たるため、労働者の同意が必要。
〇異動:企業内人事異動(転勤、配置転換)は、本人の同意不要。企業間人事異動(在籍出向、転籍)は、本人の同意が必要。従業員が企業内人事異動に従わず労務を提供しない場合は、債務不履行になり雇用契約を解除できる。
〇懲戒解雇:「時間をかけてこれだけの指導をした」という客観的な理由を提示できない限り、裁判所は懲戒解雇を有効と判断してくれない。
〇解雇:解雇をめぐる裁判は莫大なお金がかかることも。賃金の仮払いが認められると、一旦、給与分の支払いと二重払いになる。会社は労働者に返還請求できるが、実際取り戻せることは稀。
〇解雇が有効と認められにくい場合
①能力不足、②協調性不足、③勤務態度不良
〇整理解雇の4要件
①人員整理の必要性、②解雇回避の努力、③手続きの妥当性、④人選の合理性
〇解雇をめぐる裁判
労働裁判における「文書」の威力は絶大。民事裁判ではすべて「文書」で言いたいことを主張する必要がある。
〇メンタルヘルス(職場復帰の5ステップ)
①病気休業開始、休業中のケア
②主治医による職場復帰の可能性の判断
③職場復帰の可否判断、職場復帰支援プランの作成
④最終的な職場復帰の決定
⑤職場復帰後のフォローアップ
実務上は、採用、退職が悩ましいですね。採用するまでは企業側が強いですが、一旦採用すると労働者の立場が強くなる日本の法律。つまり、採用がとても重要だということ。採用に多大な労力を投入する企業があるのも頷けます。
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