本書は、国家経営力を発揮したリーダー6名の研究をもとに、「国家を経営するとはいかなることか」、「国家を経営するリーダーにはどのような資質が必要か」という観点がまとめられています。
研究対象となったリーダーは、①マーガレット・サッチャー、②ロナルド・ウィルソン・レーガン、③中曽根康弘、④ヘルムート・コール、⑤ミハイル・セルゲーエヴィッチ・ゴルバチョフ、⑥鄧小平の6名。
ソ連崩壊、ドイツ統一など、世界が激動した冷戦末期。それぞれの国を取り巻く環境が変化する中、リーダーが取った行動や発言に、学ぶべき姿勢がありました。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇各リーダーの研究から
・瀕死の病人・イギリスを救い出すために、既存の政治的な枠組みでの修正、改善ではなく、根本的な枠組みの転換を目指した。
・逆境の中にあってもサッチャーは、反対意見には耳を貸さず、緊縮財政を堅持した。彼女は、マネタリズムに基づく政策は一定の間、失業者を増やし、景気を冷やす作用があることを認識しており、強い批判にさらされることを覚悟していた。
・「国営企業の民営化が行われた場合、特にできるだけ多くの国民によって所有されるような方法とるなら、国の力が弱まり、国民の力が強まる。民営化は自由の領域を増やすすべての政策の中心である。民営化のこの根本的目的を忘れてはだめなのである」
②ロナルド・ウィルソン・レーガン
・レーガンの言葉が多くの人々を魅了し、人を動かす力があったのは、話が上手かったからではない。そこに彼の実感と人々への共感が込められていたからである。レーガンの講演は、多くの人々の脳裏に深く刻み込まれ、人々を鼓舞する者であった。例え彼の経済・社会政策と外交・軍事政策の間に多少の矛盾があったとしても、それを表面化させず、党派を超えて支持され、国民の気持ちをまとめ上げる力にもなっていた。
(後藤田正晴官房長官の回想)「改革の政治手法が大変巧妙だった。方向性の固まったものから先に答申し、実現可能性をよく頭に置いてやってもらいたいと注文を付けた。答申が出るとすぐに政府与党首脳会議で了承を取り付ける。その答申を最大限尊重するという閣議決定をやる。閣議決定を受けて官房長官と各省に対して、実施・実行までのタイムスケジュールを作らせる。それを党側にオーソライズさせる。その結果、党と政府が一体となって取り組んでいく。こういう政治手法を取った」
政策や戦略は決してスマートではないが、明確でブレないという面で強さがあった。ドイツ再統一の戦略でいえば、まずは「主権の回復」そして、「欧州の中心国としてのドイツの復活」が主題であった。常に欧州失くしてドイツなしの姿勢を貫き通し、結果としてこの基本姿勢が駆け引きと交渉においてプラスと出た。
⑤ミハイル・セルゲーエヴィッチ・ゴルバチョフ
・「ソ連邦共産党中央委員会書記長が保持する権力を民主的にコントロールし、合法性のあるものにすることを自分自身の目的に掲げた」
・ソ連邦共産党書記長のみが保有する独占的な人事権を果断に行使するべきであった。彼はその至高の権限の行使を躊躇した。トップの権限行使は抑制的であるべきであるという信念は、ペレストロイカという革命的な大事業が成就した暁に実行できる条件が整うのであって、当面は食うか食われるかの修羅場であるという状況確認が欠落していたのかもしれない(クーデータによる失脚に関して)
⑥鄧小平
・南巡講話で主張したのは、特区の改革・解放によって、まず一部の地区に実験的に自由を与え、成功すればそれを尖兵に一点突破、全国展開を図るという戦略である。
・「最も基本的なことは、われわれは後れていることをわれわれ自身が認めなければならないということである。我々の物事の進め方は多くが不適当であり、われわれは変わる必要があると自覚しなければならない」
・「現実から学んだものこそ理論」として理論より実践を好んだ。
〇国富(パフォーマンス)のための基本要素
・国家経営の基礎潜在能力
①政治力、②経済力、③社会力、④資源力
・リーダーシップ・プロセス
①大志する、②共感する、③知略する、④物語る
本書は、アカウンティングⅡで尾関講師からいただいたものです。
研究対象である6名のリーダーは、いずれも歴史の転機にリーダシップ発揮した偉大な人たちですが、共通して感じたのは、単に、「大志・信念がある」「意思が強い」というだけでなく、「広い視野・高い視点」「コミュニケーションに優れた人間性」を持ち合わせているというて点が印象的でした。