『はじめの一歩を踏み出そう』(マイケル・E・ガーバー)
25000社以上の起業家にアドバイスを行ってきた、米国の起業支援の第一人者である著者のベストセラー本です。ベンチャーマネジメントの授業と並行して、読んでみました。
多くの起業家が、従業員の立場から経営者の立場に変わった際に、役割を変えきれずに、経営のかじ取りに失敗している現状に警鐘を鳴らしています(米国では、毎年100万社以上が設立し、1年目に40%、5年で80%が姿を消している・・)。
これは、MBAで学ぶような経営全般の知識が、いかに一般の起業家に欠けているかという裏返しでもあります。
本書では、経営者が果たすべき役割を示しつつ、最終的には、自分が現場で実働しなくても企業が機能する仕組みを作りることを提言しています。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇専門能力と経営能力
事業の中で専門的な仕事をなすことと、その能力を活かして事業を経営することとは全くの別問題。にもかかわらず、多くの人たちは会社を経営するという面を見落としたまま起業してしまう。
〇起業家が持つ3つの側面
起業家の心の中にある、3つの側面のバランスを取ることが大事だが、約70%が職人偏重タイプ。
①起業家、②マネジャー、③職人
〇事業の立ち上げ
「なぜあの事業ではなく、この事業なのか」「どんな事業を始めればいいのだろうか」。こういう問いかけをするのが起業家の一番大切な仕事。
〇最初の山場
経営者が今までのやり方では事業が続けられないと気づいたときに、企業の幼年期は終わる。生き残るためには、変化しなければならない。この変化に気付いたときにほとんどの事業は倒産に追い込まれる。
〇起業の本来の目的
やりたいことをやって、仕事が増えれば、自分で仕事を抱え込むということではない。仕事から解放されて、他の人たちのために仕事を作り出してあげることが必要。自分が現場で働かなければならないのなら、それは事業を経営しているとは言わない。単に、仕事を抱え込んでしまっているだけ。
〇顧客像
起業家の視点は、顧客像を明らかにするところからスタートする。はっきりとした顧客像を持たない限りは、どんな事業でも成功しない。顧客は常にチャンスである。顧客ニーズは絶えず変化し続けるため、顧客が現在や将来に欲しがるものを探さないといけない。
一方、職人の視点で考えると、顧客は常に面倒な存在。せっかく商品を提供しても欲しがらないように見える。
〇組織の成長
手ごろなサイズ(経営者がうまくコントロールできる境目)を超えて成長するためには、他の能力を活用しなければならない。
〇事業計画
どんな計画でもないよりはマシ。文章にまとめられた計画は、必ず実現する。文章にまとめることで、頭の中で具体性を持たせることができる。こうやって、計画が現実に変わる。これが成熟期に入った企業の特徴。
〇事業のパッケージ化
事業の仕組化として、フランチャイズ方式が参考になる。「何を売るか」ではなく、「どのように売るか」。売るための仕組みにこそ価値がある。事業を発展させるルールの基本は、①イノベーション、②数値化、③マニュアル化。
〇組織図
従業員数とは関係なしに、理想的な組織図を作成することには意味がある。仕事の役割分担をきっちり決めようとすれば、事業全体について考え抜くことが必要になるだろうし、事業が機能し始めるためには、組織図という骨組みが必要。マニュアルと組織図ができれば、起業家の仕事は、現場の仕事から従業員に語りかける仕事に変わっていく。
〇管理システム
マーケティングの効果を高めるために、事業の試作モデルに組み込まれたシステムのことをいう。他社よりも多くの顧客を囲い込むことが何よりも重要である。
管理によって効率の良さを追求するよりも、マーケティングによって売上を増やす効果を重視しなければならない。
MBA生にとっては、「当たり前すぎない?」と思ってしまう内容かもしれませんが、これが起業の実情なんでしょうね。逆に、MBAを学んで起業する人は、既に、経営を俯瞰して考える、「はじめの一歩」を踏み出しているわけで、それだけでもアドバンテージを得ています。
別の見方をすると、起業家と起業家に求められる役割のギャップが大きいということは、この分野には、多くのビジネスチャンスが眠ってそうですね。