MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

カルロス・ゴーン経営を語る(カルロス・ゴーンほか)

 『カルロス・ゴーン経営を語る』(カルロス・ゴーンほか)(〇)

 ストラテジック・リオーガニゼーション(SRO)日産自動車の再生のケースを学んだため、復習として読んでみました。

 

※授業後に、授業で学んだケースの関連書籍を読むと、当時の状況や経営者の思いを詳しく知ることができ、なるほど感が高まります(復習効果”大”です)。

 

 本書は、2003年に発刊されました。前半1/3は、ミシュランルノー時代の話。後半2/3は、98年の来日後の日産再建の話です。90年代後半は日産自動車が財務的にも経営としても危機的状況にあったと言われる時代であり、本書では、ゴーンさんが何を感じ、考え、行動したのかが赤裸々に語られています。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇来日時の考え

 日産を変えるのは内側からでなければならない。すでに存在する一つの組織に別の組織を押し付けようとすれば、結果はそれを破壊することにしかつながらない。

 

定量と定性

 現実とは切り離された、資料だけ読んだ数字を重視するということはない。数字を見れば会社が深刻であることは分かる。そうした数字の裏に隠されているものを内側から発見したかった。

(当時、稼働率50%強、直近8年中7年が赤字、負債2兆1000億円)

 

〇どうして会社がそんな風になってしまったのか、どうしてそういう数字が合わらわれるに至ったのか理解するために、99年の春を使って、全国(全世界)行脚に出る。最初の数カ月、役員と過ごすより、はるかに多くの時間を現場の人たちと過ごした。

 

〇業績悪化の5つの原因

①利益を大切にしていなかった

 経営陣は数字も業績も知らなかった。データも大雑把だった。

②口で言う割にはユーザーについて考えていなかった

③切迫感がなかった

 「いつまでにできるか」と尋ねると、思ったよりも10倍くらいの時間が返ってきた。したがって、経験的にできると思う時間と、答えとして帰ってくる時間のズレを再調整するところから始めなければならなかった。

④社内セクショナリズム

 「チームでの仕事の質の高さ」と、「部門横断的なやり方の欠如の落差」に驚いた。

⑤ヴィジョンがなかった

 社員に、「5年後どうしたいか」「10年後どうしたいか」と尋ねても返ってこなかった。

 

〇企業再建の仕事

 ある意味エンジニアの仕事に似ている。家を建てるのに似ていると言ってもいい。何を優先し、どんなやり方で、どの程度のレベルのものにするのかといった発想が必要。

 

〇実行段階

 計画の実行に責任のある人々が、その作成の段階から参加したとすれば、成功する確率が高まる。自分の直接の責任範囲を超えて、全体のことを考えるようになるから。トップダウンで再建策を押し付けたら、計画は失敗に終わっただろう。

 

〇再建目標の設定

 科学的に導き出された結論ではなかった。チームの人々がこれまでの経験からどこまでなら可能と考えることができるのか、その感触からぎりぎりの線を探って導き出した結論だった。

 

〇意思決定

 合議で全員が同意しない限り先に進まないという日本式コンセンサスは、非常に大きな足かせ。意思決定方法として日本式コンセンサスが優れているというのは、かなりのところ神話に過ぎない。日本の場合、「問題を発見してから解決法を決定するまでの期間」というのが一番大切。

 

〇再生プロセスのウェイト

 最初は問題に気づくこと。次に問題が起こった原因を分析し、その内容を人々が共有すること。その分析結果をもとに具体的な計画を立てる。ここまでで、再生の5%。残り95%は実行である。

 

〇勝者になるには

 ある企業が長期的に勝者であり続けているのは、決して偶然の賜物ではない。それは経営の質の問題。敗者がそのことを認めなければ、立て直しは不可能。再建を行うためには、まず、企業が自らの失敗を認めなければならない。

 

〇経営論

 経営には絶対的なモデルはない。経営は実際に仕事に取り組みながら、その場その場で一番いい方法を見つけていくもの。その意味で言うと、困難な状況に置かれた時こそ経営者は鍛えられる。順調な時は教科書通りで問題ないが、危機に陥ったら、根本からやり方を見直さないといけない。

 全体の状況を把握し、対策の規模、期間、効果を見極めること。これが経営の基本中の基本。

 

〇経営論(考え方の順序)

 事実から出発して理論へ進める。決して、その逆はしない。あくまで、事実関係を調べ、人々の生の声を聞き、状況を把握したうえで、理論を構築する。

 

 

 やっぱり、ゴーンさんは、すごい方ですね。

 「事実」→「理論」の順序。社員や仕入先企業の生の声を拾い集め、数字の裏側で起こっていることを押さえる。課題の本質が掴めれば対策を検討し、速やかに実行する。PDCAがCから始まっている感じ。逆にいえば、業績悪化時には、チェック機能(C)が利いていなかったわけで、「経営者が数字を分かっていなかった」という言葉は、痛烈であったと思います。

 「経営に必要な数字は何か・・」。あらめて問われるとどうでしょう?軽重が付けられなければ、結局は総花的になって何が大事か分からない・・なんて、よくある話ですね。

カルロス・ゴーン経営を語る (日経ビジネス人文庫)

カルロス・ゴーン経営を語る (日経ビジネス人文庫)

 

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