『企業価値評価~実践編~』(鈴木一功)(〇)
「基本理論を学んだら事例でイメージを!」ということで、ファイナンスⅡの受講と並行し先月読んだ本です。DCF法を実際にどのように使うのか、検討ステップごとに整理されており、事例本としては秀逸です。
基本理論は一度は勉強していることが前提なので、タイミングとしては、ファイナンスⅡあたりで読むのが良さそうです。
約350ページのうち、最初の50ページでステップごとの要点を解説したうえで、残り300ページで3事例(東京製鐵、カゴメ、三共)を解説。
「財務諸表の整理~FCFの計算~WACCの算定~予測財務諸表の作成~企業価値の算定」まで、「そうそう!それどうやって計算しているのかが知りたかった!」という思考過程が端折らずに書かれているのがいいところ!
1事例に約100ページも割いて解説している事例本は珍しいのではないでしょうか。
(DCF法:20の検討ステップ‥本書より)
頭の整理のため、ざっと、項目を洗い出してみます。
【STAGE(1):過去の業績分析】
①過去の業績分析
②NOPLAT(=NOPAT:みなし税引後営業利益)の算出
営業利益×(1-実効税率)
③FCFの計算
④ROICの要素分解/バリュードライバーの算定
ROIC=NOPLAT÷投下資産
バリュードライバー:影響を受ける主な要因(売上・利益・投下資本など)
⑤信用性/流動性分析
⑥業績の詳細分析
⑦過去の業績の総合評価
【STAGE(2):資本コストの算定】
⑧資本構成の推定
・時価ベースでの資本構成の把握
・類似企業の資本構成の分析
・長期的目標資本構成の推定
⑨株式以外での資金調達コストの推定
⑩普通株式による資金調達コストの推定
・リスクフリー・レートの算定
・マーケット・リスクプレミアムの算定
・βの推定(公開企業、非公開企業)
・普通株式資本コストの算定
⑪WACCの算定
【STAGE(3):将来CFの予測】
⑫将来予測の期間と詳細の決定
⑬シナリオの策定
⑭シナリオの業績予測への転換
・売上高予測
・予測損益計算書の作成
・予測貸借対照表の作成
・予測FCFの算出
⑮複数業績予測シナリオの作成
⑯一貫性と整合性のチェック
【STAGE(4):継続価値の計算と企業価値の算定】
⑰追加投資に対するリターンの算定
⑱継続価値の算定
・g(成長率)
⑲事業価値の算定
⑳企業価値の算定
【補足:コラム】(‥これが結構面白いです)
①法人実効税率と限界税率
②理論面からの有利子負債コスト推定を巡る議論
・格付BBB以上とBBB未満の負債コスト
③理論面からのリスクフリー・レートを巡る議論
・短期国債、10年物、20年物以上のどれを用いるか?
④理論面からのマーケット・リスクプレミアムを巡る議論
⑤理論面からのβ推定を巡る議論
⑥バリュー・ドライバー式以外の継続価値算定方法
・FCF成長モデル
・精算価値法
・各種マルチプル法
本を読んでも、ケースを解いても、なかなか頭に残らない・・・。私の場合、ファイナンスは特にその傾向が顕著です。今回、詳細は書ききれませんでしたが、事例を解きながら「あれ?、このときどう考えればよかったっけ?」という疑問に直面した際に、辞書的に使えるなぁと思いました(勉強会の事例研究本としてもおもしろそうです)。
実務であるがゆえに、「ここはこの指標で決めましょう」という決めの世界があるるわけで、合理性と効率性を意識した本書の進め方は、納得感があるところです。