『グッチの戦略』(長沢信也ほか)(〇)
ストラテジック・リオーガニゼーション(SRO)のDay4がグッチのケースだったので、復習として読んでみました。
(未受講の方はネタバレになるので、受講後に読んだほうがいいです)
ルイ・ヴィトンに次ぐ世界第2位のブランド価値を持つグッチ。過去3度の経営危機、訴訟・解任・果ては殺人事件にまで至るお家騒動・・ドラマのような歴史があります。
本書は、グッチの経営の歴史にとどまらず、ラグジュアリー業界の戦略的視点、デザイナーの価値観、ブランドマネジメント、イノベーションの創出法まで幅広い内容です。著者は、過去に、ルイ・ヴィトン、シャネル、エルメスの戦略の執筆・翻訳を手掛けてきた方ですので、ラグジュアリー業界に精通しているところも魅力です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇ラグジュアリー/ファッション業界の3つの戦略
①ラグジュアリー戦略
ブランド創始者という代用がきかない無形要素を活用してクオリティの高い高価格ブランドをつくる。
②ファッション戦略
必ずしも最高の品質を目指さず、長寿命を前提としない。流行とともに価値が廃れていくような商品をつくる。
③プレミアム戦略
客観的に比較可能な商品属性から、「品質÷価格」の値を計算し、より高価な商品はそれだけ品質も高いと考えて商品ラインを設定する
〇4Pに見られるラグジュアリー業界の特徴
①製品:感性品質(経験価値) ⇔定石:機能・便益・相対品質
「価格は忘れても、品質は記憶に残る」
「製品のメッセージが伝わらないのは最悪の事態」
②価格:高価格・絶対価値 ⇔定石:低価格・相対価値
③流通:限定されたチャネル ⇔定石:広い流通チャネル
「商品とブランドイメージを正確に伝えるには自社店舗が必要」
(80%以上が自社運営の売り場)
④販促:パブリシティ ⇔定石:大量の広告
〇本社と各国拠点の関係
多くのラグジュアリーブランドにおいて製品開発は本社主導、ローカルマーケットの要望はあまり受け入れられない風潮がある。グッチは、ブランドドリブン一辺倒だけではなく、ローカルマーケットの意向もMDを通して製品開発に取り入れている。
〇店頭の差別化と川上工程の合理化
「何であれ店頭にあるものは区別されなければならない。顧客に対しては、各ブランドは競争している。社内ブランド同士が同一企業グループ同士に属していると顧客が知覚してはいけない」
「一方、顧客から見えない製造・物流・原材料調達等は、グループ同士を集めて、シナジーを発揮しなければならない」
〇ブランド投資
「若くて信じられないほどの才能を持つデザイナーに投資することは、すでに確立されたブランドの買収と比べると、コストがかなり安いうえに見返りはケタ外れに大きい。ホームランになる可能性もある」
〇社内ブランドのクリエイティブ・ディレクター同士の距離感
他のブランドのデザイナーとは親しくても、協働したらデザインが似通ってしまうため、協働は避けられていた。「同一グループであるグッチとイヴ・サンローランが同一ディレクターのもとで似通ったものになってしまったら、どちらかは、消える運命」(ブランドの残酷な構造地質学)。
〇ブランドマネジメントと株主
「お金の使い方や、どこに資本を投資するかを嫌でも意識させられる。長期的利益よりも、すぐに儲けを出すことを求める株主の意向に応えるために、結局は短期ビジョンに基づいた決断をくだすことになる。株式公開は、企業の方向性を変えてしまう」「創作意欲とグループのバランス感覚とでは食い違うことがある」
〇ブランドマネジャーと経営者
「バッグは靴と違って、サイズがないので売れ残りが少ない。年齢や体重の問題もないから選びやすい。だから儲けやすい」
「ブランド経営においてイメージを動かしているのがファッションだとすると、財源をもたらすのがバッグ。バッグはブランドの入り口になる。だからデザイナーは”いっぱい売れるバッグをつくれ”というプレッシャーをかけられる。よほど会社とデザイナーの肌合いが良くないと、デザイナーは離れていく」
ラグジュアリーやファッション業界のように、業績が優秀なデザイナーの手腕にかかっているような業界は、経営者(左脳派族)とデザイナー(右脳派族)がバランスよく折り合うことが大事で、ここが経営上の難所。
もともと感覚が異なる両者が協調しながら経営をするには、程よい距離感と信頼関係が大事ですね。分かり合えるというより、相手の領域は任せてしまうという感じでしょうか。
グッチの戦略: 名門を3度よみがえらせた驚異のブランドイノベーション
- 作者: 長沢伸也,小山太郎,岩谷昌樹,福永輝彦
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2014/10/31
- メディア: 単行本
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