MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

シャネルの戦略(長沢伸也)

 『シャネルの戦略』(長沢伸也)

 グッチに続きシャネルを読んでみました。

 本書は、タイトルどおり、経営戦略&マーケティング(ブランド戦略)の観点で書かれています。グッチと読み比べると、経営者による企業の違いが明確になり、より学びが深まりました。

 特に、シャネルは創業一族が株式を100%保有する非公開企業であることが、ブランド価値の構築やCEOとデザイナーとの関係構築などと密接に繋がっている点が特徴的です。創業者の考えが脈々と受け継がれている企業文化も興味深いところです。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇ラグジュアリー戦略のまとめ

 マーケティングの定石とは異なる

①Product:絶対品質、感性品質(経験価値) ⇔定石:相対品質、機能・便益

②Price:高価格、絶対価値 ⇔定石:低価格、相対価値

③Place:チャネル限定 ⇔広い流通チャネル

④Promotion:パブリシティ ⇔大量広告

 

〇創業家のみが株式を保有する非公開会社であることの意味

 時には非効率なやり方で、事業としての成功可能性が見えないものにでも長期的視点で投資し、技術や事業の長期的視野での育成を可能にしている。

 

〇CEOとデザイナーの信頼関係

 CEOとデザイナーは、両輪であり対等な関係と互いの専門領域への信頼関係が構築されている(この点はグッチと同じ)。

 デザイナーは、「CEOがバックにいてくれるからこそ、すべてはうまくいく」と言うし、CEOは「仮に会社の方針がデザイナーがやりたいと思ったことややるべきと考えた方向性と逆であっても、デザイナーの考えを優先する」と全面的に信頼を置いている。

 この強固な信頼関係の背景にも、創業家オーナーの非公開会社であるという点が利いている(オーナー自身の意思でリスクがとれる)。

 

〇シャネルの経営スタイル(5つの特徴)

①技術を承継し発展させる技術経営

 創業者(デザイナー)の思想が徹底して受け継がれている。「伝統的な文化や技術を守りながら革新していく」という価値観(哲学)と行動が一致している。何か新しいことをはじめるときは、社外とも共有されているこの価値観に基づいて行われる。時間と忍耐は必要だが、技術・人・哲学は短期間で簡単に構築できない。

②アイコン

 アイコンは、一目でブランドが分かる象徴となる印・マーク。シャネルは多くのアイコンを創出し、ビジネスに結び付けている。デザイン・イメージに加え、さまざまな技術を創出し、強みとしている技術経営企業である。

③運営する人材・組織体制(7S)

・staff:技術やノウハウの承継を可能にする人材

・skill:クリエイター、アトリエ職人、店舗スタッフ、マーケティングスタッフ

・style:伝統の維持と革新

・shared Value:創業者が残した哲学を理解し守ること。同時に変化させ広げていく努力。変化は進化と同じ意味を持ち、単に変化することが目的ではない。

・strategy:究極のラグジュアリーには、規格量産ビジネスとは対極にある、贅沢・高品質を提供する姿勢は、経営スタイルや価値観から伝わる流れを承継して形成されている。

・structure:中央集権ではなく、トップから現場への権限委譲も柔軟。職人のスキルや経験を信用して任せる。

・systems:高い技術によって完成される高級品をつくり出すシャネルという企業で働いているということ、手厚い福利厚生による保護は、スタッフに誇りとやる気を与えている。

④技術のサテライト化戦略(協力会社との関係)

 対等とまではいかないが、少なくとも対等に近い関係で、協力・協業態勢を敷いている。自社で持つのは難しいが、なくてはならない高度で希少な技術には投資を行う。

⑤顧客戦略

 一番の理想は、理解した人間が自力で作ること。特に製品にこだわりがあり、製品の機能はもとより、そのこだわりそのものが売り物になっている場合、世界観の忠実な表現者を社内に持つことの重要性は増す。要は、任せっぱなしにしないこと。

 

 シャネルは、グッチよりも、同族会社らしく社内や協力会社との一体感、そこからくる信用して任せるという姿勢が特に強く出ているように感じました。

 また、グッチがその時代のトップデザイナーが牽引したのに対し、シャネルは創業デザイナーの思想を脈々と受け継いでおり、人により商品作りの思想が大きく変化しないという点も特徴であると思います。

 さて、この流れでいくと、次は、ルイ・ヴィトンを読みますかね。

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