『ヒューマンエラーを防ぐ知恵』(中田亨)
多くの企業で取り組みが強化されている、リスクマネジメント。
本書は、オペレーションリスクである、ヒューマンエラーを未然防止するために、企業としてどのように取り組めばよいのかという、現場のノウハウが紹介されています。
グロービス経営大学院でも、「リスクマネジメントと企業価値」という講座が開講予定のようです。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇事故の分析は、原因の分類よりも原因のつながり(表面的な事故原因とその裏にある潜在的事故原因)を考えるべき。
〇事故かどうかの認定は事情に応じて変化する、多分に主観的なもの。
〇事故の特徴
①意外性、②有害性、③不可逆性
〇事故の本質は手遅れ
事故とは回避が手遅れになるまで危険を気づかせない罠に人間がかかる現象。事故を考える際、異変に気づくタイミングが問題。
〇フレーム問題
フレーム問題とは、想定問答の枠組みを超えた問題が無数にあって対処できないこと。だから、機械ではすべてのケースに完璧に対応できない。
「絶対に事故は起きない」ことを求められるが、「絶対に起こらない」という保証は無理。
〇問題のとらえ方
①前提条件の問題
FAXの誤送信→そもそもFAX使わずにその仕事はできないか?
②やり方の問題
FAXの誤送信→送り先の番号をいちいち手で押すことが問題だ
③道具と装置の問題
FAXの誤送信→他の手段(電子メール等)を使えないか
④やり直せばよい
間違うことは仕方ないという考え方。FAX送信後に相手に着信を確認する。
⑤致命的でなければよい
重要でない間違いは気にしない。コスト管理の発想。
⑥認識の問題
間違いから何か生まれるかもしれない。逆転の発想だが極論。
〇ヒューマンエラーの抑止対策
①発生頻度の抑制‥作業を行いやすくする
・評価方法:五感に関する検討項目。情報の量・内容・表現方法。
・剣道も茶道も間を持たせることで精神集中している。単なる停滞の一秒と精神の制御のための一秒とでは価値が違う。
・人間と作業が合っていなければ、ヒューマンエラーは多発する。
②事故回避‥人に異常を気づかせる
・エラーの脅威はエラー自体の大小ではなく、エラーの検知のしやすさによって測られるべき。
・多忙すぎて過酷な労働環境では、ヒューマンエラーが多発する。これはヒューマンエラーの問題と考えるより、人員不足の問題。
③被害を押さえる‥大きな事故に発展しないようにする
・「この機会のどこが故障すると、どのような事故になり得る。その備えはこうする」という発想。備えあれば、憂いなしだが、憂いがあるから備えられる。
〇ヒューマンエラーの防止に向けて
・到底無理に見えるアイデアでも、それを可能にする権限を持った人に知らせることによって、可能になることもある。
・情報共有が事故防止のカギ。答えを出すことには真の効果はない。
〇チェック方式‥ダブルチェック
二人がかりなら異常を見逃す確率は2乗されて小さくなるという算術は通用しない。一人目が見逃す異常は二人目も見逃す。「もう一人が見てくれるから自分のチェックは雑でも大丈夫」と思いがち。大人数でお神輿を担いでいると、誰か一人が力を抜くもの。役割分担し、ツッコミ役を設けると効果が増す。
〇チェック方式‥〇×方式
信頼が置けない。いつもの惰性で丸を付けてしまうミスが多いという欠点がある。
〇チェック方式‥報告式
ひとつ上のグレード。「この部屋の証明は何ルクスか?」「何時何分にメールを送信したか?」と聞けば、安易に〇を付けて済ますことがなく、厳重さが増す。
最後は、人に意識に帰着するヒューマンエラーの問題。人間だから「絶対」はないが、現実的に、あってはならない重大な領域は存在する。ミスが生じても大事に至らないことも含めて、ヒューマンエラーにどのように向き合えば良いのか、起こりうるにしてもどこまで確率を下げられるのか。企業が直面する悩ましい問題を考えるきっかけになりました。