『ANA整備士のこだわり ヒューマンエラーは現場で防ぐ』(田口昭彦)
航空機整備の現場一筋の著者が現場の経験から紡ぎ出した、ヒューマンエラー対策のノウハウ本です。
絶対に事故を起こしてはならない航空機整備の仕事。人手の作業に頼る以上、「ヒューマンエラーは絶対に起こらない」とは言えない中、どういう対処や工夫をしているのだろう?と興味を持ったので、読んでみました。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇エラーの連鎖を断ち切る
・多くの事故や不具合は、一つのヒューマンエラーで起こることは稀で、エラーがチェーンのようにつながったときに起こる。
・ヒューマンエラーが原因の事故やトラブルは毎日どこかで起きているが、人の努力によって、その何万倍もの事故やトラブルを防いでいることも事実。現場で仕事向き合っている作業者、一人ひとりの仕事に対する熱意やこだわりがエラーの連鎖を断ち切り、事故やトラブルを防いでいる。
〇「仕事の重要さ」の理解
どんな仕事も基礎知識は絶対に必要。原理原則を抜きに良い仕事はできない。しかし、現場の第一線で最も考えないといけないのは、「その仕事の重要さ」。
大変な努力をしないと空を飛べないということを認識し、謙虚になることから安全に対する意識は高まり、これが事故防止の第一歩となる。
〇監査
・事前に知らせて普段とは違う状態を監査しても、本当の問題点は見つからない。
・指摘した内容が、重箱の隅ではなく氷山の一角であることをお互いが認識して、初めて現場の中に不安全要素があるということが共有できる。
・点検する側、される側が一緒になって職場にある問題点、不安全要素を洗い出し改善していくことが安全文化を作り上げていくことになる。
〇思い込み、勘違い、早合点
・初めての経験では起こらない。その人が持っている記憶のパターンがたくさんある人、すなわち経験豊富な人ほど、思い込みや勘違い、早合点は起こしやすい。
・思い込みを起こさないような分かりやすい記述と、新しい目で物事をみるというのが、思い込みによるヒューマンエラーを起こさない方法。
〇話に意識を向けさせる
・人間の耳は、音の大きさで聞いているわけではない。どうでもいいことは聞こえないし、集中して仕事をしている人に話しかけても聞こえていない場合がある。まずは、意識(注意力)をこちらに向けることが必要。
・名前は、その人固有のものだから、自分の名前を呼ばれると自然と意識はこちらに向く。話の前に、「〇〇さん」と、名前を呼ぶだけで注意を向けられる。
〇伝わったか
・一方的に、「言いました」「伝えました」では、コミュニケーションになっていない。相手が分かってこそ、初めてコミュニケーション。
・コミュニケーションで最も大切なことは、「何を言ったか」ではなく、「何が伝わったか」
〇中途半端
中途半端は事故や不具合のもと。やるなら最後までやる。やらないならやっていないことが分かるようにしておく。
〇確かは不確か
・「確か・・・あれは」という言葉が出たときは、不確かな証拠なので、確認する。
・体で覚えているものは忘れることはないが、しっかり意味づけして覚えていないと曖昧な記憶になってしまう。
〇意図的な規則違反
・人間が持っている特性。楽をしたい、近道をしたい、面倒くさいとか様々な思いからルール違反や手順を省略する。この意図的なルール違反をなくしていかないと、マイナスの品質を少なくすることはできない。
・改善するためには、手順を超えて作業してみる必要がある場合があるが、組織で判断するという手順を踏むことが大切。
〇勝ちに不思議な価値はあり、負けに不思議な負けはなし(野村克也)
・ミスにも必ず理由がある。熟練者のエラーには、初心者のように技量や能力を高めれば解決できるというようなものではないので、ミスの原因をしっかり見つめなおし、次に活かしていくことがミスの発生確率を減らすことに繋がる。
〇スピード
・点検は、速さと範囲を決めておかないと、人によってかなりばらつきが出る。
・スピードだけを目的にしていないか。現場でのスピードの出し過ぎは、いつか事故や不具合を引き起こす。
ミスを起こさないための高い意識を持った人づくり、現場づくり、風土づくりが根幹にあると感じました。
トップダウンでルールや体制を整備しても、最後は、現場で実働する人の意識にかかっている訳であり、現場で口伝によって伝承される風土を作り上げているところに、見習うべき点があると思いました。