MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

「機械式時計」という名のラグジュアリー戦略(ピエール・イヴ・ドンゼ)

『「機械式時計」という名のラグジュアリー戦略』(著者:ピエール・イヴ・ドンゼ、監修:長沢伸也)

 グッチ、シャネル、ルイ・ヴィトンと続いて読んだ、ラグジュアリー戦略シリーズの最後として、スウォッチグループのラグジュアリー戦略本を読んでみました。

 1980年代前半、「クオーツショック」「セイコーショック」と呼ばれる日本企業との競争でスイス時計産業は壊滅的打撃を受けました。スウォッチグループは、当初、一体感に乏しい時計製造企業による異質な要素で構成される複合企業でしたが、中央集権化、合理化、グローバル化された多国籍企業へと変貌し、ラグジュアリー化して復活・逆転した軌跡が書かれています。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

スウォッチの最も重要なイノベーションは、それがグローバルブランドとして販売されたこと。この製品は、地域市場に合わせたものではなく、世界中でまったく同じように販売したこと。

⇒この戦略は、他の産業(コルゲート、ネスレ、P&G、カルティエなど)出身の新しいタイプのマネジャーによって実行された。

 

〇ファッション産業から拝借した主なイノベーションは、単一ブランドの販売店である旗艦店という概念。旗艦店は世界中で同じデザインと雰囲気を備え、パリ、ニューヨーク、銀座などに立地。そこから一気に店舗を拡大した。

⇒旗艦店は店舗自体がブランドを広告している。

⇒ブランド大使が出席する上流階級を招いたイベントにより、ブランドの持つ卓越した技術力を紹介する消費者教育とともに、ブランドのストーリー手リングの一部となっている。

 

〇オメガ、ロンジン、ラドーのような「手の届くラグジュアリー」セグメントの差別化に注力。目指すところは、各ブランドのイメージを強化しておのおのが異なりつつも補完的な異なる購買層を対象とした製品づくりを行う。

スウォッチグループポートフォリオには、常に中価格帯ブランドが含まれている。これは、他のスイスの時計メーカーに見られない現象。

⇒そのうえで、すべての市場区分(低価格帯、中価格帯、手の届くラグジュアリー、特権的、特権階級のラグジュアリー)で存在感を示している。

 

スウォッチグループがこの分野で競争力を発揮する理由のかなりの部分は、生産コストの優れた管理能力にある。

⇒スイス国内の生産合理化(ムーブメント及び部品生産のグループ会社への集中化、部品メーカーの垂直統合)

⇒生産の国際分業による共有のグローバル化(タイ・香港・中国・日本)

 

〇経営は同族資本主義へ回帰

 グループの経済的な独立を確保し銀行と金融の世界への依存を断ち切り、投資家への依存度も低下させる経営方針。

⇒オーナーの意思により、次世代経営陣の到来を積極的に準備し、世代交代時に企業統治の中断がなかった。

 

 

 先に読んだ、グッチ、シャネル、ルイ・ヴィトンとは異なる業界ですが、ラグジュアリーという価格帯でセグメントされるターゲットを考えると、戦略は似てくるものだなと思いました。

 販売面は、特に、チャネルとしての直営店舗を通じたブランドイメージ作りは、共通点だと思います。やはり、業界を横展開で学ぶことは、本質を浮き彫りにしてくれ、学びが整理される効果があると感じました。

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