『勇気堂々』(城山三郎)以来、久しぶりに渋沢栄一氏を小説で読んでみました。
日本資本主義の父。武蔵の豪農の出身で、徳川慶喜の側近となって理財面で才能を発揮。パリ万国博覧会の使節団で渡航後、明治に入って大蔵省の骨格を作って実業界へ。第一国立銀行を皮切りに、王子製紙、日本郵船、帝国ホテル、京阪電気鉄道、第一銀行、勧業銀行、帝国劇場、澁澤倉庫、日本興業銀行、札幌麦酒、日本放送協会、日本航空輸送、日本女子大・・・など創設に携わった企業・団体は500以上。 道徳経済合一を唱えた、名著『論語と算盤』の著者としても有名です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇出会いとは、いつも3通りの人間に遭遇すること
①学ぶ人、②語る人、③学ばせる人
〇本の読み方(7歳からの学問の師、尾高惇忠のことば)
「本は読みやすいものから読め。難しい本と睨めっこしても無駄。本の意味が分かるようになるには人生経験を豊かにしなければ駄目。だから、自分が面白いと思う本から読み始めたほうが良い」
「ただ面前と読んでは駄目。自分の生き方に照らし合わせて、なるほどな、と感ずる読み方をする。そうなると、知らず知らずのうちに読書力が増して、難しい本も読みこなせるようになる。つまり、文字を読み手の肥料として活用しなければ、本は役に立たない」
〇論語と算盤
武士道といい士魂といっても、あくまでも「人間の道」すなわち「道徳」。
「人として歩まなければならない道と、踏み外してはならない道」。
「道徳と経済の一致」を願った。これが、一貫した理念であり、人生信条でもあった。
〇協同組織、共力合本法
たとえ商業といえども、一人の力はたかが知れている。独断に走ると、必ずしも相手の幸福を促すようなことにはならず、逆に相手を苦しめる場合がある。これは道にもとる。これを避けるためには、商品が共同体を組織して、手を取り合って運営していくことが必要。
〇士魂商才
武士と商品を共存共栄の立場に持ち込むため、武士精神である「士魂」ち商人の保つべき姿勢との融合をはかった。士魂を日本人精神と考え、商人の保つべき姿勢を外国商人のそれから考えた。つまり、「日本人の精神を失わないで、外国の優れた知識や技術を導入する」「道徳を中国の儒教で鍛えた武士の精神に求め、商人の知識や技術を外国に学ぶ」。
「和魂洋才」が「士魂商才」に変わっていった。
〇大蔵省改正局での大改革案
①日本の実態を知るために全国測量を実施する
②量目を統一するための度量衡の改正案
③租税制度が物納から金納に変える改正案
④飛脚による情報伝達を統一して全国的な駅伝制に変更(のちの郵便法)
⑤貨幣制度の大幅改正案
⑥大名や武士への禄制の改革
⑦鉄道敷設案
⑧政府諸官庁の職務分掌の明確化
⑨政府各省の庁舎建築の基準設定と管理
⑩簿記法の定め
財界にこれだけの功績を残し、『論語と算盤』や『論語講義』のような名著を記した素晴らしい方ですね。創設に携わった企業名を見るだけで、その偉大さを感じます。小説では、多くの改革の際の四面楚歌の大反対の中を断行する信念とタフさも感じることができました。
グロービスの志系の講義でも、一度は取り上げて欲しい人物です。