『問題解決のジレンマ』(細谷功)(〇)
既知を前提に展開されるクリティカルシンキングに対し、本書では問題解決思考から問題発見思考につなげていく視点から、未知の領域を掘り下げています。アリとキリギリスの例を使いながら、「無知」の活用を提言する興味深い内容です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇問題解決が得意な人は問題発見が不得意であり、逆もまた真なり。
〇3つの思考領域
「既知の既知」「既知の未知」「未知の未知」の領域がある。
⇒既知と未知は、「事実」と「解釈」に分解される。
事実の無知より解釈の無知のほうが、ポジティブでもネガティブでも影響が大きいにもかかわらず、気づきにくいという本質的な課題を持っている。
〇無知と既知
既知の領域は増える一方。だからと言って、既知が増えれば未知の部分が減っていくのかと言えばむしろ逆で、知れば知るほど未知の領域は増えていく。
〇無知の着目点
①無知の知:自分を客観的に見ることで、無知の知の境地に達する。
②素人視点を持つこと。一般に無知は悪いことのように思われているが、余計な知識が無いために生じる無知は、むしろ歓迎すべきである。
〇問題発見のジレンマ
問題は事実と解釈のかい離から生じる。人間は線を引くことで知の世界を発展させてきたが、逆に引かれた線が、問題を発見して次の新しい知を生み出す際の障害になるという、構造的な矛盾(知のジレンマ)がある。
⇒イノベーターは線を引き直す人
見えない線にいつまでも固執して守りに入るのが世の中の多数派だとすれば、そこに歪みを見つけることができるのがイノベーター
〇「閉じた系」と「開いた系」
・「閉じた系」:線引きした領域で考える
・「開いた系」:線引きせず制約なしで考える
⇒問題を解決しやすくすることが、次の問題を発生させやすくするという根本的なジレンマを「閉じた系」は内包している。
人は線を引くことで道具や文明を進化させるとともに、それによって次の世界への移行が困難になるという根本的な矛盾と戦いながら生きてきた。
閉じた系で考える場合の思考回路には2つの特徴がある。①観察対象に線が引かれている、②そこに、内と外がある。
巣の内と外を明確な線引きで区分するアリは、二者択一という発想になりがち。ガラパゴス化することもある。線を引き直す発想が求められる。
〇アリとキリギリス
・アリ:ストック、閉じた系、固定次元
・キリギリス:フロー、開いた系、可変次元
⇒環境変化が早い世界においては、知的資源の陳腐化は不可避。ある時代、領域の専門家にとっての知的資産は、次の世代に移るときには逆に重荷になる。
・知っていることから発想するのがアリ、知らないことから発想するのがキリギリス
・変数が固定化されているアリは、問題解決がうまくいかなかったときに、他責かつ被害者意識を持ちやすい。キリギリスは、文句があるなら代案を出すべきという発想。
・アリはナンバーワン思考、キリギリスはオンリーワン思考
・問題解決志向のアリはむやみに変数を増やすと問題の難易度が上がることを本能的に知っている。キリギリスは成約条件そのものを決めるのが自分の仕事だと思っている。
・アリの組織マネジメントに必要なのは、「規則」「ルール」「テンプレート」
・アリ型の発想はストック思考の閉じた内向き志向。キリギリス型の発想は、フロー思考の開いた外向き志向。
〇組織におけるアリの比率が高くなればなるほど、イノベーションの必要性は高まってくるのに、そうなればなるほど、キリギリスの居場所はなくなって、飛べなくなるという根本的なジレンマがここに存在する。
〇問題発見のために上流にさかのぼるのに最も重要な疑問詞はWhyで、下流にいくほどHowの内容が増えてくる。WhyのキリギリスとHowのアリの差の原因。
〇負のバイアスの代表が自らと他人の間に線を引いて考える、自己の閉じた系とでもいえる自分中心のものの見方。まずこれに気づこうというのが、メタの視点、つまり無知の知。
〇次元を上げる
①抽象化して考える
②軸で考える
③Whyで考える
「既知の既知」「既知の未知」「未知の未知」の3つの領域。アリとキリギリスを題材にした、視点の違い。
分かっていると思ったところで、思考が止まってしまう危険性を自覚しているだけで、次へのステップにつながるのかなと思います。クリティカルシンキングをやっていると、切り口の発想と論理的な分解・統合によって、問いに的確に答える思考力が高まっていきますが、一方で斬新さに物足りなさを感じていくことがあります。
凝り固まらず、柔軟な思考であり続けるために有効な一冊でした。