MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

人は、誰もが「多重人格」(田坂広志)

 『人は、誰もが「多重人格」』(田坂広志)(〇)

 あすか会議2015に登壇された田坂先生。懇親会でお話した際に、「この本いいと思うので読んでみて」とお薦めされたので、早速仙台駅近くの本屋さんで購入して帰りの電車で読んでみました。

 本書は、『知性を磨く!「スーパージェネラリスト」の時代』の中で触れられている「多重人格のマネジメント」について、田坂先生と田坂塾の塾生が対話形式で掘り下げていく講義本です。「多重人格」というとネガティブな言葉のイメージがありますが、田坂先生は、「優れた経営者は、例外なく「多重人格」」と仰ります。

 自分の中に「複数の人格」が存在することを自覚し、自由に表出することができるならば、それは「精神の病理」ではなく、「素晴らしい才能の開花」をもたらす仰るその中身はとても興味深いです。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇複数の自分

 普通の人間も誰もが自分の中に「複数の人格」を持っている。問題は、それを自覚しているか、自覚していないかである。「複数の人格」を自覚し、置かれた状況や立場によって「異なった人格で対処する」ことを意識的に行えば、自然に「様々な才能」が開花していく。才能の本質は「人格」。

 

〇話術の要諦は、「人格の切り替え」

 田坂先生の講演は、「講談モード」「漫談モード」「真剣モード」「演説モード」「学者モード」「思索モード」「詩人モード」などがあり、切り替えながら話をされています。→えっ!漫談モード?(さすがに最近は少ないとのことです)

 

〇3人の自分を持つ

①演じている自分、②それを見ている自分、③その2人を少し離れたところから見ている自分

 →(経営戦略の田村先生の授業でも全く同じ話をお聞きしたことがあります)

 

〇会議を運営するノウハウ

 「始め民主主義、終わり独裁」。

→(人格の変化が分かりやすいひと言ですね)

 

〇ペルソナ(表の人格)

 ペルソナが硬い(一つの人格から他の人格に柔軟に切り替えられない)ことが問題。硬いペルソナは、才能の開花を抑圧する。

→(要はその時の状況によって自分自身が柔軟に変化できるか)

 

〇人間の潜在意識や深層意識の世界は「天邪鬼」

 表層意識でプラスのことを考えれば、深層意識でマイナスのことを考えてしまいます。「今日は絶対勝つ」と思えば、「負けるんじゃないか」という不安も生まれる。これを変える簡単な方法は何が、普段何気なく使っている「言葉」の使い方を工夫することは一助になる。

→(発した言葉の裏側を考えてみる)

 

〇経営者、マネジャー、リーダーの成長

 マネジメントやリーダーシップの本質は「矛盾」に処すること。「様々な性格」や「様々な人格」の切り替えや使い分けが求められるため、自然にそれらの性格や人格を育てる結果になり、「多重人格」になっていく。

→(経験を体験にすることが大切と仰る田坂さんの教え) 

 

〇人格形成

 「人格」とは、かなりの部分が「生きてきた環境」「出会った人間」「与えられた経験」などによって後天的に形成される。現在の人格は簡単に変えられないので、現在の人格を変えようとせず、新たな人格を自分の中に育てること。ある人格を気持ちを込めて演じていると、その人格が自然に育ってくる。我々の中には、可能性としてすべての人格が隠れている。

→(自分はこういう人間!と決めつけない方がいい)

 

〇3つの人格

(1)表層人格

 ある状況では隠れているが他の状況ではすでに表に出ている人格。

①自分が今の仕事にどのような人格で取り組んでいるか自己観察する

②自分が仕事以外の世界でどのような人格を表しているかを観察する

③仕事のできる人がどのように人格を切り替えているかを観察する

④自分の仕事において表に出して活用する人格を切り替える

(2)深層人格

 現在は隠れているが立場や状況が変わったり意識的な努力をすると表に出てくる人格。

①優れたプロフェッショナルを師匠として、その師匠から人格を学ぶ

②自分の中の隠れた人格が開花する仕事を選ぶ

③日常とは違う場で現れる日常とは違う人格を体験する

(3)抑圧人格

 何かの理由で強く抑圧されており、心の奥深くに抑え込まれ、なかなか表に出てこない人格。

 

〇小さなエゴ(小我)を大きなエゴ(大我)へ育てる

「自利は利他なり。利他は自利なり」。人間性を高めるにはエゴをマネジメントする必要がある。心の中の小さなエゴ(小我)は捨てられない。ならば、他人の幸せを自分の幸せと思えるエゴ(大我)を育てて、社会全体に良い影響を与えていくこと。

 

 講演を聞いた直後ということもあり、言葉の裏にある田坂さんの深い考え方や熱い思いをしみじみ考えながら読みました。「役割を演じる」、「違う自分を演じる」・・管理職も長くなり、いろいろ試行錯誤しながら自分なりにやってきたので、とても刺さる内容でした。「多重人格」という言葉を前向きにとらえる考え方は、人に伝えるときもシンプルで分かりやすい発想ですね。

人は、誰もが「多重人格」 誰も語らなかった「才能開花の技法」 (光文社新書)
 

f:id:mbabooks:20150707073950j:plain