『未来を予見する5つの法則』(田坂広志)
あすか会議2015の反響がすごい田坂さんの著書です。田坂さんシリーズは、以前から好きで、主に内省用に読ませていただいていましたが、執筆数も多く、まだまだ未開拓本がたくさんあります。
本書は、弁証法的思考で未来を予見する考え方を学ぶ内容です。講演でもお話されていた「螺旋階段」の話が5つの法則のひとつ目に出てきます。
「不連続」「非線形」「加速度」の3つが、未来予測を困難にしているとされる中、どのように未来を予見していくのか、興味深い内容です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇「定量的」「具体的」な予測はできないが、「方向的」「大局的」な予測はできる。
→世界の変化、発展、進化の根底にある「法則」を洞察する。
→そのためには、世界の本質を洞察する「哲学」を学ぶ。
〇弁証法の「5つの法則」
①螺旋的プロセス
・世界はあたかも螺旋階段を登るように発展する
→単に元の場所に戻ってくるのではない。螺旋階段を登ることによって、必ず一段高い場所に登っている
・「進歩・発展」と「復活・復古」が同時に起こる
→古いものが新たな形で復活してくるプロセス。ただ懐かしいだけでなく、「便利+懐かしい」という着眼
・予見の4ステップ
■「何が復活してくるのか」
→重要度の高い機能が普及した後は消えていった、重要度の低い機能に重点が移る
■「何が消えていったのか」
→世の中での表面現象が消えただけ
■「なぜ消えて行ったのか」
→意味がなくなったのではなく、重要度が落ちた
■「どうすれば復活できるのか」
→進化においては、古いものが消えていかず、新しいものと共存共生していく
②否定の否定(現在の動きは、必ず将来、反転する)
・トレンドのリバウンド
・第一の否定
→対面での情報サービスの競争を否定し、低価格の取引サービスの競争に徹する
・第二の否定
→価格競争から、高度な情報・知識サービスを競い合う付加価値競争へ
・言葉で表せる知識‥誰でも手に入る → 言葉で表せない智恵
・「ドッグイヤー」(1年=7年分)から「マウスイヤー」(1年=18年分)へ
オールドミドルマン→ニューミドルマン(購買代理・購買支援)→コンシェルジェ(顧客中心の新たなビジネスモデル)へ発展
③量から質への転化(量が一定水準を超えると質が劇的に変化する)
・情報伝達コストの劇低下(量的変化)→オールドミドルマンからニューミドルマンへの進化(質的変化)
・量が一定の水準を超えたか否か
目安は、「キーワード」が忘れられたかどうか
(例)電話、ファックス、インターネット、eメール・・
④対立物の相互浸透(対立し競っているもの同士は互いに似てくる)
・弁証法においては、「古いものと新しいもの」、「否定するものと否定されるもの」、といった対立し、競っているように見える2つのものが互いに相手を包み込んでいき、結果として両者が融合し、統合されていく
(例)リアルとネット、証券と銀行、営利と非営利(CSR、社会企業家)
⑤矛盾の止揚(矛盾とは世界発展の原動力)
・矛盾があるからこそ、企業の生命力が生まれる
・止揚とはアウフヘーベン。両者を肯定し、包含し、統合し、超越することによって、より高次元へのものへ昇華していくこと
・矛盾のマネジメント
→マネジメントがどちらかに偏ったとき、反対側に振り子を振り、全体のバランスを取ること
→社会のリーダーたる人物に求められるのは、目の前の矛盾から逃げることではなく、その矛盾と格闘しつづけること。
・器の大きな人物
→心の中に壮大な矛盾を把持し、その矛盾と対峙し、格闘し続けることのできる人物
5つの切り口の中では、特に、「矛盾のマネジメント」という点が印象的でした。「マネジメントとは矛盾に対峙して物事を進めて行くこと」というのは、マネジメントで意識していることです。何かどうしようもない壁でがあっても進むしかなく、それを乗り越えたときに新しい世界が拓ける。チームマネジメントも経営も政治も、矛盾を越える力は、次の変化を生む原動力だ
と思います。