『ヒューマンリソース戦略』(佐藤修)
本書は、人事コンサルタントお薦めの一冊です。内容は、トイザらスの事例に基づき、戦略型人事戦略の考え方についてまとめられています。出版時期は1999年ですが、現在でもその発想は使えると思います。著者はトイザらスの人事部長を経験されたのち、ナイキジャパンの人事本部長に就任された方です(当時)。
「人事戦略って具体的に何をするの?」というイメージを掴むのに適した書籍だと思います。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇「人」がどう扱われるか。それは、企業がどこを向いているかという問題でもある。
基本的な考え方が性悪説の管理の発想に基づく人事システムに、例えば能力主義という性善説の考え方を持ち込んだとしてもうまく機能するはずがない。一つのシステムが他のシステムとうまく連携し、相互に支え合わなければ、システムは生きたものとして動かない。すべてが綿密に計画され、構造力学上で成り立っているところが、戦略型人事の戦略型たるゆえん。
〇情かシステムか
構造力学とかシステムでものを考えるということは、血の通わない冷たい印象をもつが、多くの人間が幸福になろうとするときは、偏った情よりも、公平なシステムのほうが大いに力を発揮する。システムは運用されることで初めて魂を吹き込まれ、息づく。
〇人事のゴール
「どうすれば個人の適性や能力を最大限に生かし、それを企業の成長につなげていけるのだろうか?」という問いに答えること。
つまり、人事のゴールは、戦略型人事の「人」に対する考え方を実現するための環境の提供にある。
この問いに答える術は・・・
①企業の持つビジネスプロセスを明確にする
②単純明快なビジネスプロセスに合わせて組織をつくる
③組織のポジションそれぞれの要求する能力要件を明確にする
④③に合致する人事を確保・採用し、組織を完成する
⑤確保・採用した人材を育成し、仕事の機会を与え、評価する
⑥個人の成長を情報として記録する
⑦個人の情報を活用し、能力と成長に合わせて更なる機会を与え、評価に繋げる。
〇ラインによる人事管理か、中央集権型の人事管理か
伝統的に人事部が行ってきた人事をラインが行うと、人事部の役目が変わる。ラインが現場で判断できるような環境を整備し、企業と個人をつなぐ視点を持って経営を引っ張っていくことが求められる(経営参謀的な役割)。そこで要求されるのが戦略を持った人事。
〇人間関係をプラスに持っていくために、企業が用意できる制度
①公平を期す人事制度
②会社と社員間に加えて、社員相互のコミュニケーション
③教育機会
⇒人事部の組織も、人事のビジネスプロセスに従って作っていく
(リソースマネジメント/人事開発/報酬・処遇/労務管理)
〇人事のゴールに向けた仮説・検証のための道筋
①戦略の必要性認識
②人事のゴール
③内外環境の分析
④戦略課題の認識・グランドデザインの構築
⇒ゴール設定/確認・具体化策の提示
⑤基本的スタンスの設定
⑥制度・プログラムの導入、展開
決して仕組みだけでは効果が上がらない人事関連制度。本書においても「システムは運用されることで息を吹き込まれる」とあります。経営者が、経営陣が、管理職が、制度を動かす一人ひとりが、自分の言葉で語ることが大切。ついつい制度に目が行きがちになってしまいますが、人が協働する組織を作るには、ソフト面が本当に大事だと改めて思いました。