『現場論』(遠藤功)(〇)
戦略を立案しても現場の差で結果は大きく異なる。平凡な現場を非凡な現場へ変えるキモは何か。長年コンサルタントとして現場を見てきた著者が非凡な現場をつくるポイントをまとめた現場作りの一冊です。
なかなか良書が見つからないオペレーション戦略分野ですが、本書は良書だと思います。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇「情報のない本社、権限のない現場」という構図を放置したままでは、現場を競争力の柱に据えることなどできない。
〇非凡な現場を作るための2つの合理性
①合理的な必然性
何のために、何にこだわって活動を行うかを一人ひとりが理解・納得・腹落ちしている。
②合理的な仕組み
活動を能力へと転換するプロセスにおいて、能力形成に必要な要素が整い、循環的な仕組みへの機能している。
〇現場に潛む5つの性質
①現在進行性、②予測不可能性、③即興性、④具体性、⑤複雑性
〇業務遂行主体としての現場
①非同質性+②反復性‥反復でありながら非同質である。
〇人材育成主体としての現場
①同質性(金太郎飴的に育成される)+②隔絶性(閉ざされた世界で行われる)
〇組織能力
A社は低コストで作ることができるのに、B社はコストが高い。A社は品質が安定しているのに、B社は不良品が多い。こうしたパフォーマンスの違いは機能や業務の違いではなく、組織能力の違いだと認識する必要がある。
〇ポジショニングと組織能力(一橋大学 楠木健教授)
ポジショニングは「シェフのレシピ」、組織能力は「厨房の中」。結果を出すにはポジショニングと組織能力を一対のものとして考えること。厨房の中を知らずしてレシピを考えることなどできない。
〇現場を形成する3つの能力
①保つ能力
価値創造のために決められた仕事を決められたように確実に遂行する。
⇒多能工を育て、「しか」を「でも」に変える
②より良くする能力
⇒改善によって生まれる差は微差を一つずつ積み重ねること。
③新しいものを生み出す能力
⇒保つための規律と新しいものを生み出す自由のバランスをとること。
〇愚直さ
活動を能力へ高めることができるかどうかの差は、愚直に活動に取り組んでいるかどうか。愚直さは非凡な現場を作るために不可欠。愚直とはとことんやりぬくこと。
〇非凡な現場を作るための4つの基本認識
現場力という組織能力を高める取り組みを途中でとん挫させないためには、経営トップから現場のスタッフに至るまで全員が腹に落として理解することが大切。
①自律分散型組織の構築には手間がかかる
②「保つ能力」と「より良くする能力」は全く異なる能力である。
③最低でも10年のつもりで時間軸を長くとる
④まず本社が変わる
〇業務をよりよくする必要性‥業務は自らの膨張を招く
①業務は肥大化する
②業務は個別化する
③業務は陳腐化する
〇ナレッジワーカーを育てる8つの鍵
①全員をナレッジワーカーに育てる
②「コア人材」を育てる
③チームを育てる
④規律を埋め込み、自由度を高める
⑤あえて制約を課す
⑥細部にこだわる
⑦顧客を背負う
⑧ミッションを担う
〇経営者の役割
・現場は経営者の「写し鏡」
より良くする能力、新しいものを生み出す能力をコア能力にしようと経営者が本気で思わない限り、現場が能動的に新たな能力を構築することはあり得ない
・経営者にしかできないこと
①現場を未来に向かわせる、②現場の持てる力を解放させる
〇「現場は理詰めでなければ動かない。現場は理詰めだけでは動かない。」
本書では、デンソー、ヤマト運輸、住宅金融支援機構、サンドビック瀬峰向上、良品計画などの事例が詳しく紹介されており、イメージがしやすい内容でした。オペレーションは、労働者が介在し、さまざまな意識、価値観、モチベーション、能力などをコントロールし、一つにまとめていくだけあって、まさに努力を重ねた歴史そのもの。戦略は真似できてもオペレーションは真似できないとうことがよく分かります。