『人物を創る』(安岡正篤)(〇)
著者の書籍をまだ読んでいなかったため、「大学」と「小学」について解説された本書から入ってみました。幅広い引用を含めた解説が深く、一度に理解するのは難しいですが、繰り返し読んでみたくなる味わい深さでした。
「大学」は「礼記」の一篇から抜き出された四書のひとつ(他に「論語」「孟子」「中庸」)。「小学」は朱子が先儒や偉大な先覚者たちの中から範となるものを編纂されたもので身近なテーマが多いのが特徴です。
(印象に残ったところ‥本書より)
【大学】
〇3綱領
①大学の道は明徳を明らかにするに在り
・明徳:全体から見ればごくわずかな、我々の意識される分野
⇔玄徳:自覚されない無限の分野
・明徳を明らかにする‥我々の持っている能力を発揮すること。明徳を明らかにしようと思えば、哲学とか信仰とかが必要。孔孟の学と老荘の学は、あるところまでゆくと必ず一つになる。二つにわけるのは本当のことが分からぬ証拠。
②民に親しむに在り
・道徳は「常に自己を新しくすること」。親しむことができて初めて新しくすることができる。
③至善に止するに在り
・「絶対的な善」に到達すること。
〇道に至るための八原則
①止することを知って、しかるのち定まる有り
ある境地に到達するに及んで人間はだんだん安定してくる。進歩しなければ安定ということはない。
②定まってしかるのち能く静かなり
あるところに到達し、安定して、初めて静かなることを得る。
③静かにしてしかるのち能く安んず
人間でも出来てくるほど静かに落ち着いてくる。がさがさしているのはできておらぬ証拠
④安んじてしかるのち能く慮る
安定して初めて全能力が発揮される
⑤慮りてしかるのち能く得
精神というものを十分に活動させて、初めてああだこうだと把握することができる
⑥物に本末有り
だいたい存在する物には本末がある
⑦事に終始有り
すべて事には終始がある
⑧先後する所を知れば則ち道に近し
終わりは始めの終わりであって、同時に次の始まり。収支というものは循環する。
【小学】小学の解説に入る前に著者の記載が興味深いので、こちらを紹介
〇真理とか道とかいうものは始めなく終わりなしで、大にしては宇宙、小にしては一言一句、どこから始めても良いし、どこで終わっても構わない。誠に融通無碍。
〇ここからが科学、ここからが宗教、などという区別は決してない。説明の便宜上、知識とか技術とかと区切るだけのことで限界などというものはない。
〇今日、「大学」はまだ読むけれども「小学」は読まなくなってしまった。しかし、「小学」を学ばなければ「大学」は分からない。
〇世の中を救うためには、まず自らを救わなければならない。広い意味において、小学しなければ、自分も世の中も救われない。
〇「小学」は人間生活の根本法則。人間生活のよって立つ根本は何といっても道徳。この道徳の基本的な精神・情緒といったものを培養しなければ、人の生活は発達しない。
以下、「独を慎む」「人と交わる」「子弟に告ぐ」の章に分け、「論語」「荀子」「宋史」「呂氏童蒙訓」「二程語録」・・・など多数の古典から引用が続きます。
以前、グロービスの田久保講師から『大学』を勧めていただいたことがあり、岩波文庫で読みました。岩波文庫も良かったのですが、本書はさらに解説が分かりやすく、『小学』も書かれている点がお薦めポイント。中国の古典を学ぶ際に早いうちに読んでおくとよいと思いました。
【新装版】人物を創る―人間学講話「大学」「小学」 (安岡正篤人間学講話)
- 作者: 安岡正篤
- 出版社/メーカー: プレジデント社
- 発売日: 2015/04/23
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