『地方消滅 創生戦略篇』(増田寛也、冨山和彦)
元岩手県知事の増田氏と(株)経営共創基盤CEO冨山氏が、地方消滅を避け、真の地方創生へ進むシナリオが対談方式で書かれています。地方回帰の思考は高まっていると言われていますが、依然東京圏への人口流入は減らない現実。
政府が掲げる「50年後も人口1億人を維持」するには合計特殊出生率を現在の1.42から2.07に引き上げないといけない。人口の減少は止まらない前提に立って将来を展望し、生活の質を維持・向上していくための戦略を推進していくには?
(印象に残ったところ‥本書より)
〇政・財・官のトライアングル
地方の生産性向上を阻む一つの要因。イノベーションよりも陳情が優先される。
〇人材
これからの地方について考えるとき、リーダーシップを取れる高度人材がいるかどうか、という点がカギを握る。一番太い幹としては、自分の地域の大学から人材が育つこと。長期的には、地域の若年層からいい人材が湧き出ること。そうして経営層から現場までちゃんと人事が揃うことが大切。ベテラン世代と地方の関係だと、完全にリタイアする前に、東京から地方へ移住して経営人材として活躍してもらうモデルも有効。
あり得ないほどの生産性向上を描いたり、他の町から大量の移住者が出るような絵を書いたり、不都合な真実から目をそらしがち。人口が減るということを口にいた首長はみんな叩かれる。痛みを直視することへのアレルギーが非常に強い。
〇県庁所在地、第二・第三の町
地方消滅を防ぐために一番大事なことは、若い人たちが東京ばかりではなく地方に残ろうと思えるだけの仕事の場を、せめて県庁所在地につくること。可能性が高いのは、医療、福祉サービス。県庁所在地や第二、第三の街に夫婦で500万円稼げる仕事をたくさん作ることが重要。美しい里山のなかで循環して経済が回っていくという話は、日本の地方全体の話としては無理。「べき論」ではなく、選択肢のない話。
地方創生に向けていろいろな戦略が出てきたときに、全部を採用しようという発想はダメ。本当にやる気とポテンシャルのある産業、企業、経営者(つまり強き)に資源を集中するようなプランを出してきた地方にお金や権限を与えるべき。
〇労働
労働基準監督署を厳しくしたり、時間外労働の制限を思い切り強化すべき。最低賃金についても引き上げたほうがいい。弱きを引かせることも大事。
〇大学
地方大学は地元の人材を地元の企業のために鍛える役割をもっと果たしてほしい。大学はアカデミックなことをやる場所をやるところであって、職業教育なんてものは大学でやるべきではないとしている点に疑問を感じる。
〇生産性
経済成長には人口増加以上に生産性の向上が効いてきたという人類史上厳然たる事実がある。持続的な成長がアベノミクスの最終的なゴールだとすれば、そのために欠かせないのは生産性向上であり、その余地があるのは、圧倒的にローカル経済圏。
本書では著者お二人の経験や冨山氏が経営される東北の交通会社の事例も取り上げられており、とても現実的な会話がなされています。お二人の主張は基本的に同じ方向に向いているので、実際には、対立する意見の方との議論を聞いてみたくなります。
地方に「〇〇銀座」があることを例にあげ、「地方は東京を目指すから失敗する」という主張はなるほどなと思います。地方らしさをどうビジネスに結び付けるか、そこに人がどう絡むか、課題は多いですが可能性も大きいと感じました。