『ソーシャルゲームのビジネスモデル』(田中辰雄・山口真一)(〇)
「リスクマネジメントと企業経営」の担当業界がゲーム業界ということで、読んでみました。
ソーシャルゲーム自体をやったことがないため、「一体どんな収益モデル?」「業界の抑えるべきツボはどこ?」といった素朴な疑問を解決したいと思っていたところ、内容はドンぴしゃでした。独自の調査にもとづいた研究論文なので、分析内容はしっかりしています。
(印象に残ったところ‥本書より)
サーバにコンテンツを置き、それへのアクセスサービスを販売。ゲーム内容は常に更新され新しいイベントなどが供給される。ゆえに通信機能は必須だが、一方、大画面や3Dなどの高度な処理能力は使わない。
〇市場規模と高い利益率。
2012年には4000億円に達し、従来型ゲームを抜きさった。上位3社(DeNA、グリー、ガンホー)の利益率は、基本的に30%以上、40~50%のときも珍しくない。
〇課金ノウハウ
課金の基本はアイテム販売(プレイ時間延長、強いキャラ、特殊能力など)。課金ノウハウは比較的移転しやすく、優れたゲームデザイナー、運営者を数人引き抜いて自社に移せば、同水準のゲームが作れそうである。
〇ソーシャルゲームのビジネスモデル
・売上:クラウド型であるため、従来型ゲームのようなゲームソフトの販売本数という概念に意味はない。実際にプレイしているアクティブユーザー数が指標となる。
・コスト:費用はゲーム開発費と毎月発生するアップデート、サポート、イベントなどの運営費(大半は人件費)。最初の開発費はそれほど多くはなく、新規参入が容易である。
〇需要面の特徴
①「フリーミアムモデル」
無料ユーザーが大量にいる一方、高額の課金を行うユーザーが存在する
②「ネットワーク効果」
ソーシャル要素から得られる便益は人数が多くなるほど大きくなる
→価格差別をやめてすべてのユーザーから毎月一定額を徴収すると、無料ユーザーは消え、課金ユーザーだけになるので、総ユーザーは大幅に減少する。総ユーザーが減少すればネットワーク効果の便益が失われ、支払意思額も減少する。
課金額は、年齢が高くなり収入が高くなるにつれて増える。ユーザーの課金行動に最も影響を与えるのは、ゲームで登録している友人のうち、特に交流のある人数。
〇ゲームソフトの寿命
従来型ゲームのソフトウェアは売上上位に入っても早期に順位が下がるが、ソーシャルゲームは一旦多くのユーザーを獲得するとユーザーが多いこと自体が魅力となってユーザーを引き寄せるため、寿命が長い(ネットワーク効果が参入障壁となる)。
〇KPI
・DAU(Diary Activ User):ゲームをプレイしている人数(アクティブユーザー)
・課金率:DAUの中で課金した人の比率
・ARPU(Average Revenue per User):DAUの一人あたり平均課金額
・ARPPU(Average Revenue per Paid User):課金ユーザーの一人当たり平均可金額
〇課金誘導の失敗
射幸性を煽る商法に社会的批判が集まり、2012年5月には、消費者庁が規制を導入するとの報道を機にコンプガチャショックが発生。それ以降もRMT(Real Money Trade)の抑制など自主規制が続き、ユーザーにとって魅力が減少している。
これは、ソーシャルゲーム業界の歴史が浅く、運営側がユーザーの楽しみを理解する間もなく発展したことに起因する。つまり、ソーシャルゲーム業界は、従来型ゲームメーカーと異なり、子供の頃からの愛着でやるのではなく、ビジネスとして儲かるからやっている人が多い。KPIに偏った経営が重視されるのも同じ理由。ソーシャルゲーム業界には、従来型ゲーム産業出身の人も少ない(ガンホーは例外か)。
〇プラットフォーム
スマホの急速な普及に伴い、ソーシャルゲームはアプリが中心となっている。ゲームアプリのプラットフォームは、App Store、Google Playが寡占市場を形成。今後日本企業が参入する余地はしばらくない。しかし、ソフトウェアでは世界市場の4割以上のシェアを押さえている(日本市場が世界に先駆けて成長したため、先行者としてノウハウを有している)。
①フリーミアム、ネットワーク効果、価格差別(熱中するユーザーに多く課金)という要素が組み合わさったビジネスモデル、②コンテンツ供給者、③熱心な課金ユーザーというプレイヤー、④規制をかける政府が形成するソーシャルゲーム業界は、フリーミアムビジネスとしてはこれまでにない特徴的な業界だと思います。ゲームをやる人もやらない人も、業界研究は気づきが多く、おもしろいと思います。