『「本屋」は死なない』(石橋毅史)
さまざまな理由で紙の本が読まれなくなってきている現状について、本を愛する書店主・店員の方々の思いをつづったルポです。JBCCで議論し尽した本業界。あらためて、この業界の置かれた難しさとともに、本を読む方が減っている寂しさや本の素晴らしさが伝わってきます。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇東京の商店街で5坪の本屋「ひぐらし文庫」をひらく商店主
「本をたくさん知っている。それだけならAmazonの検索が一番。書店員が本のタイトルに詳しくても意味がない。この本の隣に何を置くかというのも、もはや原理原則を言ってもしょうがない。まとめてAmazonで買えばいい残っているのは「個別」。この店に何がないといけないのか、どう並べなきゃいけないのか。これだけが残っている。そのためには、店の子に5年や10年で辞められたら困る。経営者は定年まで自分の店で働いてもらえるような人材育成をもう一度やらなきゃいけない」
〇ジュンク堂の店長
「お客は自分が好きな本を並べている本屋と出会った時、良い本屋だと思う。だが、その本はすでに持っているからもう買わない。だからその本は売れないのだが、お客は自分の好きな本を置いてくれているその本屋に、他にも面白い本があるだろうと期待して何度も足を運び、別の本を買っていく。数字上は売上ゼロの本がこうして店の売上に貢献していることを考慮せずに棚を作っていけば、本屋は魅力のない空間になってしまう」
〇岩手県、さわや書店の元カリスマ店員
ベストセラーや話題の新刊確保に追われる中でも、独自に発掘した本を店内のあちこちに並べ、他書店が気づかない未来のベストセラーに先んじて目を付け、独占的に大量販売を仕掛ける醍醐味を味わえた時代。積み上げた読書量と人脈を活かして日々の棚を構成し、次はどんな売りたい本に出合えるかと、毎日の新刊の入荷を心待ちにしていた時代。そういう時代が終わった。日の当たらない本を売れ筋に仕立てることを得意とする一書店員の成果を、取次や出版社はPOSデータを通してすぐにキャッチし、全国的な販売につなげる手法を確立しつつある。
〇さわや書店のもう一人のカリスマ
「時代小説コーナーの担当となる前後に、あらたに約600冊の時代小説を読んだ。押さえておくべき作家の代表作を見つけないと棚は作れないし、時代小説全体の流れにおけるその作家の位置も見えない。代表作を探すとき、過去に一番売れたとか賞を獲ったというのは参考にならない。自分で読んでいって、ここが作家の神髄だと自分で見つけないと棚はできない。ちゃんと通して読むしかないから時間がかかる。一番集中した時は月に90冊を読んだ。遅番のとき、朝3時半に起きて、出勤までに3冊読む。もちろん、他のジャンルはほとんど読めませんでした」
「書店員ってみんな、ちょっと変わっています。視点が斜めからだったり、素直じゃなかったり。そういう一人ひとりの個性を繋いでいくことが、これからは重要になると思う」
並ぶ書籍はこの店独自のジャンル、テーマで分けられている。いわゆるベストセラーはほとんど置いていない。郊外にチェーン店が進みはじめ、お客から「本が好きで本屋を始めたっていう割に、この店『本』が全然ないね」と言われた。朝日出版社のエピステーメー叢書を取り扱うことから始め、一般の読み物から哲学までをランダムに見せる、今の姿ができていった。
やはり、本が好きで書店主となった方は本に対する思いがハンパではなく熱い。月間90冊って本当に好きでないと無理無理・・。棚づくりをする際の本と本の関連性を考えたり、取次への返却のタイミングを見極めたりと、これは職人技です。これからも、本を読む文化が続くように、素敵な店づくりを願って止みません。