MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

ジオエコノミクスの世紀(御立尚資、イアン・ブレマー)

『ジオエコノミクスの世紀』(御立尚資、イアン・ブレマー)

 ボストンコンサルティング日本代表の御立尚資さんと、世界トップクラスの国際政治・地政学エキスパート、イアン・ブレマー氏の共著&対談です。

 タイトルの「ジオエコノミクス」とは、国が自国の発展のためだけでなく、国家安全保障の強化も加味して経済政策を作り、それを推進するための経済理論のこと。

 本書は、地政学・安全保障などの知見をレベルアップし、「したたかさ」を備えたビジネスリーダーを目指すための一冊です。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇構造変化・トレンドの中での重要事項

①人口変動

・人口と豊かさの関係。

 工業化→食糧生産の増加→衛生への政府投資→基礎医療の浸透→乳児死亡率の低下

初等教育の充実→高い識字率→工場労働者の増加→豊かさの実感→さらに人口増加

②工業社会化

 豊かさを示す、「一人当たりGDP」。

 農業社会が400ドル、工業社会が1万~3万ドル。

③一極化から多極化へのシフト

新興国が豊かさを守り高めるために軍備を増強→周辺諸国と軋轢→軍備増強

地政学的リスク要因が新興国への工業化の広がりとともに発生

・米国はシェールガス革命のお蔭で輸出国に転じるとみられている→米国の内向き志向が相対的な影響力を下げる→地政学・安全保障上、リスクを増加させる

 

〇日本の地政学的状況は改善されている

安倍政権が歴史と戦争を語る際、被害者感情を傷つける発言を控えている

②中国指導部が国の改革政策に自信を深めている

→改革を一元管理している指導部は、近年の東シナ海における一連の対立後に日本が対中投資を減らした事態が、中国経済と他国への評判に不必要なダメージをもたらしたことに気付いた。

③インドが資源・水・軍事的地位・領土を巡って中国のライバルになりつある

→これにより、中国の日本に対する敵対心は自然に弱まっていくだろう

 

〇対談より

・21世紀のジオエコノミクスの特徴は、中国の台頭に加え、金融の武器化。ドルが基軸通貨であり米英の巨大金融機関が支配的な影響力を持っている。アメリカ主導の金融機関とシステムという手段に依存して国際的に影響力を行使している。

・21世紀について考えるとき、前半50年と後半50年に分けて考える。最大の要因は人口増加が今世紀末でピークを打つこと。人口増ペースが衰え、地球規模での高齢化が進展し、人口が頭打ちになる今世紀後半は別世界になる。

・今後相当期間にわたって原油価格が低いレベルであり続ける可能性が高い。このメインシナリオの大きな要因は、シェールガスとイラン。シェールガスによってエネルギーの自給が可能となってきた米国。米国にとってエネルギー安全保障は、もうサウジアラビアとの友好関係に依存するものではない。したがって、サウジアラビアとイランの全面衝突が現実化するリスクは増大している。それが現実になったとき、はじめて原油価格高騰の地政学的要因が生まれる。

・日本はこれからますます難しい立場に立つ。米国も中国も完全に覇権を握れない状況が続く中、中国に地理的に接し、米国と同盟関係にある。西欧諸国と違い、価値観と政治体制を共有するような国々が近隣にあって経済統合し安全保障を共同で担うような環境にはない。本当にチャレンジングな地政学的な立ち位置にある。

 

〇ジオエコノミクスの時代

・非競争リスクが高まる時代であり、それらへの対応力の構築が急務

→競争リスク以上に、地域紛争、経済制裁反日運動といった非競争リスクが、収益の上振れ、下振れをもたらすことになりかねない。

・発生確率が1~2割しかなとも、あり得る将来像の一つとして認識して、シナリオプランニングで備える(波及効果と事前対応策を考え抜く)。

 

 時間軸もエリア軸も広範にわたる視座が数段上がる内容でした。あの御立さんが、まえがきで、「本書は私が(共著の)イアンに教えてもらう部分が7割」とおっしゃるほどイアン・ブレマー氏の知見が溢れています。地政学そのものにも興味がそそられます。

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