MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

大世界史 現代を生きぬく最強の教科書(池上彰, 佐藤優)

『大世界史 現代を生きぬく最強の教科書』(池上彰, 佐藤優)〔kindle版〕

 

 池上彰さんと佐藤優さんが「世界の今」を論じる一冊。

 「歴史」を知るとは、生きていくために「自分」を知ること、歴史を学ぶことは主婦やビジネスパーソンにも意味がある、と語るお二人の世界史観を感じることができる視野が広がる内容です。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇アラブ

 今起きているのは、アラブで新しい民族ができる動きなのかもしれない。これまでは「シーア派のイラン(ペルシャ)」と「スンニ派のアラブ」という構図だったのが、イラクを中心に、「シーア派アラブ民族」というカテゴリーが生じる可能性がある。 こういう混乱した状況になると、最終的には思想が人を動かす。だから過去にどういう思想の鋳型があったのかを調べることが重要。    

  「イスラム国」の狙いは、シャリーアイスラム法)のみが適用される単一のカリフ帝国(イスラム帝国)を建設すること。既存の国際秩序、国際法、人権など普遍的価値をいっさい認めていない。この点を見誤ってはいけない。

 

〇トルコ

 トルコがなぜシリアのアサド政権を潰さなければならないのか。実は、アサド政権は、もはやトルコにとって直接の脅威でも何でもない。ただ、イランの傀儡としてアサド政権がシリアにあるとすれば、「ペルシャ帝国」の版図がそこまで及んでいることになる。これは当然、トルコとしては認められないから、潰さなければならない。

 

ギリシャ問題

 そもそもギリシャを「ヨーロッパ」と考えるのが間違い。現在のギリシャは、19世紀に恣意的につくられた国家。ロシア帝国大英帝国グレートゲームのなかでオスマン帝国をいかに解体していくか、という戦略の一環としてギリシャがつくられた。

 中心になったのは、当時、ロシア領の黒海沿岸に住んでいたギリシャ人。古代ギリシャと関係があるかのように誤解させることをロシアとイギリスが合作で行った。だから、現在のギリシャアイデンティティは、近代になってつくられた「伝統」。

  西側は、ギリシャには産業をつくらなかった。工業が発展して工場労働者が生まれると、共産党が組織化するから。だから、農業と観光だけの国にしておいた。それと、NATOの基地を置いて、その代わりお金だけはいくらでも援助します、ということにした。

 その後、ギリシャでは、軍事独裁政権ができるが、アメリカは、対ソ戦略を優先してそのことには目を瞑った。モスクワに近いどこかに核ミサイル基地を設置する必要があったから、何とかギリシャを西側に繫ぎ止めておきたいということで、多額の援助を続けてきた。

 1981年にEUの前身のEC(欧州共同体)に加盟すると、さらに加盟各国から財政援助を受けることになり、始めから他国に支援される存在だった。こうして、ギリシャが見放されることはない、という「ギリシャ神話」がつくられていった。

 ギリシャがユーロやEUから離脱し、NATOからも脱退すると大変なので、アメリカは、EU諸国に対し、ギリシャを追い込まないよう働きかけている。

 

〇言語の表記

 表記法は、国家にとって非常に重要な問題。たとえば、中国共産党はなぜ画数が少ない簡体字にしたのか。表向きは、この場合、識字率を上げるためだが、その本質は、国民からそれ以前の知識を遠ざけるため。簡体字教育が普及すると、それ以前に使われていた繁体字が読めなくなって、共産党支配以降に認められた言説だけが流通するようになる。歴史を断絶させ、情報統制を行なった。

 ロシア革命の後でも、ソ連はロシア語の表記を少し変えて、文字を四つ消してしまう。ナチスドイツがひげ文字のアルファベットではなく、英語と同じ読みやすいアルファベットを採用したのも同様。

 

〇世界史の学び方

 世界史を学ぶうえで、お薦めしたいのは、高校の世界史の教科書。それも世界史Bではなく、世界史Aの教科書。世界史Bは、巨大な年表のような感じだが、世界史Aは、受験の縛りがないため、著者たちが自由に書いている。

 高校の世界史Aの教科書を読み比べてみて、最も良かったのは、第一学習社。次に清水書院。三番目に山川出版社。評価の基準は、図版の使い方を含めて、現代を知る上での読みやすさ。

 

〇社史

 ビジネスパーソンに勧めるのは、自分の会社の社史を読むこと。過去にどういうことがあったか、とくに不祥事があったときに、それをどう記録しているか、あるいはどう誤魔化しているか。自分がその会社で働く上で、社史を学ぶのは、大変重要。

 

 

 歴史が苦手な人でも現在の出来事と結びつけて考えると興味が湧いてくる・・そんな印象を持ったお二人の対談でした。とくに、ギリシア問題については、少し歴史を紐解くことで、なるほどと思える解説です。

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