『目に見えない資本主義』(田坂広志)
2009年に発売された本書。リーマンショックがもたらした世界経済危機を乗り越えて、我々は何を学ぶのか。貨幣経済を超え、広い視野から資本主義の未来を語る、これからの資本主義の変化の方向性を示唆する内容です。
(印書に残ったところ‥本書より)
〇資本主義の「経済原理」に起こる5つのパラダイム転換
要約すれば、「目に見える経済」から「目に見えない経済」への転換
・情報革命、規制緩和、グローバリゼーションにより複雑系としての性格を強めている。複雑系経済の最大の問題は、「意図的に操作できない」こと。
・複雑系は、あたかも声明を持っているかのように挙動する
経済や市場において、自己組織化と創発のためには、自由競争が重要だと考え、経済や市場を放任すると、ときにバタフライ効果のような現象を引き起こし、突如、システム全体が崩壊する可能性がある。
・「自由競争の維持」と「政府規制の強化」に加え「自己規律の促進」という第3の方法を重視しなければならない。そのために、企業や個人の倫理基準や行動規範の確立という方法を長期的な視点で進める必要がある。
②「知識経済」から「共感経済」へ
・知識資本の特徴は、「所有できない」、「自然に増える」、「形態が変わる」
・知識資本→関係資本→信頼資本→評判資本→文化資本と形態を変えながら広義の資本になっていく。
・資本主義の成熟とは、「見えないもの」が「見えるようになる」こと。例えば、マニュアル的なサービスがサービスであると思い込んでいる人間には、決して見ることのできない世界。目に見えない価値を見つめ直す経営が生まれてくる。
③「貨幣経済」から「自発経済」へ
・贈与経済→交換経済→貨幣経済へと変化
・インターネット革命により、多くの人々から見える経済活動になり、世界中に影響を与える経済活動になった。
・Amazon、Google、Linuxというような、貨幣経済と自発経済が融合したハイブリット経済が生まれている。
④「享受型経済」から「参加型経済」へ
・イノベーションの民主化、オープンイノベーション、ユーザーイノベーション。
・民主主義の原点回帰。「政治の民主主義から経済・文化の民主主義へ」「意思決定への参加から社会変革への参加へ」「間接民主主義から直接民主主義へ」。
・人々の幸福感という問題に対する「明確な哲学」と「深い思想」がこのパラダイム転換に求められる。
⑤「無限成長経済」から「地球環境経済」へ
・人口爆発、食糧不足、資源枯渇、エネルギー危機、環境汚染により人類全体の経済成長は100年以内に限界に達すると、すでに1972年時点で予測されていた。
・GNH(Gross National Happines):国民総幸福度
〇5つのパラダイムにおいて重視される価値
①複雑系経済
個人や企業の倫理観や行動規範が大切にされる社会
②共感経済
人々の共感によって、社会全体で知識や知恵が共有される社会
③自発経済
善意や行為による活動が溢れ、精神の満足が得られる社会
④参加型経済
誰もが社会のイノベーションや変革に参加できる社会
⑤地球環境経済
自然と共生し、持続的に存続していける社会
キーワードで読み解くには、難しい内容ですが、「目に見えないもの」が資本主義を動かすという点に着目して考えてみることが必要だと思いました。「資本主義の成熟は、目に見えないものが目に見えるようになること」。そんな時代の中で、あらためて目に見えないものが持つ価値が見直されてくるのでしょう。
れる。