『使える弁証法』(田坂広志)
2005年発行の本書。「ヘーゲルが分かればIT社会の未来が見える」というサブタイトルが付されるように、ITが社会を大きく変え始めた当時に、ヘーゲルの弁証法のうち、「螺旋的発展の法則」を用いて、社会がどのように変わろうとしているのか、それにどのように対処していくのかということを示唆しています。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇「螺旋的発展の法則」
弁証法にはいくつもの法則が語られるが、最も役に立つ法則がこれ。
世の中のすべての物事の進歩や発展は、右肩上がりに一直線に進歩・発展していくのではない。あたかも螺旋階段を登るようにして進歩していく。横から見るとより高い位置へと進歩発展しているように見える。しかし、上から見ると、先ほどまでいた場所に戻ってくるように見える。
〇螺旋的発展の法則例より
非効率なビジネスモデルはひとたび消えていったが、一段登って、進歩・発展して復活・復古した。すなわち、便利な懐かしいもの。
・オークション⇔市場のセリ
・ギャザリング⇔生活協同組合(生協)
・コンシェルジュサービス⇔御用聞きサービス
・eラーニング⇔寺子屋
・電子メール⇔文の文化
・ナレッジコミュニティ⇔ボランティア
〇進化の本質は多様化
電子ブックが現われても紙の書籍はなくならない。古いものと新しいものが共存し、共生し、棲み分けることによって世界の多様性を高めていくプロセス。
〇昔から螺旋的発展は起こっていた
かつては、世の中の変化が遅かったから、一人ひとりの個人は、それを見ることはできなかった。だが、ドッグイヤー、マウスイヤーと言われるように、我々の人生の長さに比べ、世の中の変化が早くなり、螺旋的発展を目撃するようになった。
〇何が復活してくるか読むために
・合理化と効率化の中で、何が消えていったのかを見る
・その段階で、それがなぜ消えていったのかを考える
・新しい技術や方法で、どうすれば復活できるかを考える
〇消えたものには意味がある
・存在するものは合理的→現実に世の中に存在したものには必ず意味がある→重要度が低くなったため社会の表面から姿を消した(合理化と効率化のため)
・合理化を実現するための均質化→合理化の極点での反転→均質化から個性化への回帰というプロセスで復活してくる。消えていったものの意味を深く考えてみるべき。
〇復活では必ず価値が付け加わる
・新たに付け加わる価値を考えることは極めて重要
・新しいものを古いメガネで見ては失敗する。いかなる形で新たな価値が付加されるか、新しいメガネでみること。
〇世の中の動きは必ず反転する
・否定の否定による発展の法則(振り子の動きに似ている)
→合理化と効率化が極限まで進み、コスト削減による価格競争も極限まで進んだ段階で斑点が起こる。
〇知識社会とは知識が価値を失う時代
言葉で表せる知識そのものは、誰でも手間と時間と費用をかけず、容易に入手することができる→言葉で表せない智恵が価値を持つようになる。
〇対立するものは互いに似てくる(対立物の相互浸透による発展の法則)
弁証法における復活とは新しいものを内包した復活。弁証法による否定とは、否定するものを内包した否定。即ち、弁証法においては、対立し、争うかに見える二つのものが、ある意味で互いに相手を内包していき、結果として、両社が統合されていく。
〇矛盾のマネジメント
矛盾のマネジメントの要諦は、割り切らないこと。割り切りとは、魂の弱さである。
→矛盾をただ機械的に否定すべきではない。その矛盾を弁証法的に止揚(アウフヘーベン)していかなければならない。
世の中から消えていったものの意味に着目し、それにどのような付加価値を付け加えるか。それは、職場から、社会から、家庭から、いつの間にか便利になった裏側で消えていったものに着目し、その本質的な部分が何かということを考えることでもあり、なにか大切なものが失われていないかということを考えることでもあります。「時代が変わっても本質的に変わらないもの」を探してみたいと思う一冊でした。