MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

「学力」の経済学(中室牧子)

『「学力」の経済学』 (中室牧子)[kindle版]


 教育を経済学の理論や手法を用いて分析することを目的としている教育経済学。本書は、その教育経済学が明らかにした「知っておかないともったいないこと」を紹介することを目的に書かれています。

 

(印象に残ったところ‥本書より)
 〇「試験」と「祖母の急死」の不思議な関係
  祖母が亡くなる確率は、中間試験の前で通常の10倍、期末試験の前には19倍になり、さらに成績が芳しくない学生の祖母が亡くなる確率は50倍にも上る。そのココロは?

 

〇親の影響
親の学歴や所得が高いほうが、子どもの学力が高い。東京大学では、親世帯の平均年収は約1,000万円、世帯収入が950万円以上の学生の割合が約57%。

 

〇ご褒美はインプットに与える 

 「テストでよい点を取る」というアウトプットにご褒美を与えることは、子どもたちの学力に影響を及ぼさなかった。 「インプット」にご褒美が与えられた場合、子どもにとって、何をすべきかは明確。本を読み、宿題を終えればよい。一方、「アウトプット」にご褒美が与えられた場合、何をすべきか、具体的な方法は示されておらず、どうすれば学力を上げられるのかわからない。 つまり、ご褒美は、「テストの点数」などのアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに対して与えるべき。アウトプットにご褒美を与える場合には、どうすれば成績を上げられるのかという方法を教え、導いてくれる人(指導者や先輩)が必要。

 

〇具体的に褒める
 「能力をほめることは、子どものやる気を蝕む」。子どもをほめるなら、「あなたはやればできるのよ」ではなく、「今日は1時間も勉強できたんだね」「今月は遅刻や欠席が一度もなかったね」と具体的に子どもが達成した内容を挙げることが重要。そうすることによって、さらなる努力を引き出し、難しいことでも挑戦しようとする子どもに育つ。

 

〇教育費
文部科学省の調査によると、家計が大学卒業までに負担する平均的な教育費は、幼稚園から大学まですべて国公立の場合でも約1,000万円、すべて私立の場合では約2,300万円に上る。

 

〇人的投資効果
 人的資本投資の収益率は、子どもの年齢が小さいうちほど高い。就学前がもっとも高く、その後は低下の一途を辿っていく。そして、一般により多くのお金が投資される高校や大学の頃になると、人的資本投資の収益率は、就学前と比較すると、かなり低くなる。 人的資本への投資はとにかく子どもが小さいうちに行うべき。

 

〇 学力の決定要素
 子どもの学力の50%が家庭や本人の要因で決定されている調査があり、いかに家庭の資源の影響を適切に取り除くかが重要。 学力には遺伝の影響も大きい。中学3年生時点の子どもの学力の35%は遺伝によって説明できる。

 これ以外にも、生まれ月、生まれ順、生まれたときの体重など、どう考えても子ども自身にはどうしようもないようなことが、子どもの学力や最終学歴に因果効果を持っていることを示すエビデンスもある。「どういう学校に行っているか」と同じくらい、「どういう親のもとに生まれ、育てられたか」ということが学力に与える影響は大きい。

 

ゆとり教育
 ゆとり教育が実施された時期に子どもの学力格差が拡大した。週休2日制。ゆとり教育の一環として学校週休2日制が導入された2002年の前後で比べると、親の学歴によって、子どもの学習時間に顕著な格差が生じた。 学歴の高い親に育てられた子どもは、土曜日の学習時間の減少を平日の学習時間の増加で埋め合わせたが、学歴の低い親はそのような行動を取らず、結果として土曜日が休みになったことで、学習時間の格差が生じた。 学校週休2日制が始まった後に、とくに高所得者層が子どもの学習費(とりわけ塾などへの支出)を増加させたことが明らかになっている。

 

 統計に基づくと説得力ある分析結果。「意外や意外」と感じるものもあれば、ゆとり教育などは「やっぱりね」と思ってしまいます。教育への投資効果は早ければ早いほどよいというのは、効果が発揮される年数を考えればその通りなのでしょうが、投資は継続し続けるべきだとも思います。やはり最後は一人ひとりの考え方や行動にかかってきますね。教育のテーマは今も昔もこれからも、変わらず議論が続くテーマですね。

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