『「無知」の技法』(スティーブン・デスーザ、ダイアナ・レナー)(〇)
田久保先生が「今年読んだ中で3本の指に入る」と紹介されていたので、即買いしました。
本書は、「知らない」ということについて、幅広いレンズを通して考察していくもので、様々なエピソードや体験談を読んで、知らないこととの関係をもっと実りのあるものにする方法を探るということを目的としています。
■ひとことまとめ
「知らないという世界」は恐れでもあり、成長の糧でもある。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇答えを求める脳
・人間の脳が最適な機能を果たすためには確信が必要
・重大な不確実性を抱えているのは、大きな負荷。脳は常に答えを求める。
・左脳は常に解釈を行い、秩序と理屈を探している。例え存在しない場合でも。
〇深い知識と専門領域
深い知識と専門的研究への注力があるからこそ専門家になれる。逆に、知っていることに重点を置くあまり、知っていることを疑ったり、知らないと認めたりすることができなくなり、視野が狭くなることがある。
〇無知と自己防衛
私たちは周囲からのプレッシャーを敏感に察知して、自分の力不足や無能ぶりを隠そうとする。例え答えを知らないときでも知っているフリをしたがる。反対に他の人は知っていると信じたがる。特に、自分より上に立つ者との関係において、この傾向は何より深刻に顕著となる。
〇知識とリーダー
知識があり過ぎるがゆえに進歩できないという逆説的な状況が起きることがある。リーダーがすべての知を振りかざそうとすると周囲は疲弊する。知っている人の知識と専門性に依存して、自分の学びと成長にブレーキをかける。つまり、知を振りかざすリーダーは、チームを破綻させなねない。
〇未知
・未知を恐れる理由の一つは、自分自身と向き合わざるを得なくなり、自分の弱さ、不完全さを突き付けられるから。
・肩書や役割は、マントのようなもの。その中に隠れて、知らないことによって脆弱になるのを避ける。
・人は、知らないという内面的体験と、有能という印象を維持したい外面的問題との間で葛藤を感じる。
・未知との境界線に立たされた時の一般的なサインとして、人は恥ずかしい気落ちになる。面目を失いたくないし、世間的な評判も傷つけたくない。
〇無知からの学ぶ
・分からないと認めるからこそ、ものを学べる。
・余白は何かが「ない」のではなく、空間が「ある」
・知識が「ある」とみなすことの問題点は、視点が往々にして、知識が「ない」ことにひそむ機会を締め出す点。
・確信がないという不安な状態に耐えること
・知らないを「ない」で捉えるのをやめ、そこには機会と可能性が「ある」ととらえなければならない。
・多くの分野の成否を分ける根幹に、知らないという姿勢が関わってくる。知らないことに対峙した人々がそれを創造と可能性の源泉として活用した経緯を学べば、未知の学習に苦戦する私たちにとっても貴重な教科書になるはず。
・「ある」を追求する能力(知識、技術、競争力)と「ない」を受容する能力(沈黙、忍耐、疑い、謙遜)を組み合わせたときに、初めて新しい学びと創造の余地を生み出せる。
〇見えない世界に踏み込む際にしてはいけないこと
コントロールできないものをコントロールしたがるエゴにしがみつくこと
〇即興
即興とは、その場で適当に何とかすることだと誤解されやすい。むしろ正反対で、即興は構造を心得たうえで始めるもの。
〇自力で検討すべきもの
未知のものは確かに怖い。その先へ進むかどうか判断は簡単にはくだせない。自分はどんな風にやっていくつもりなのか。どんなシチュエーションが待っているのか、自分にはどれだけ耐える力があるのか、サポートは得られるのか。挑むリスクのレベルを図るために、一人ひとりが自力で検討しなければならない。
「知らない」ということとどう向き合うか。避けて通る自分をどう前に向かせるか。「知らない」ことがもたらすメリットに目を向け、勇気をもって前進してみる。そこから、予想しなかったようなメリットがもたらされ、成長にもつながる。そんな考え方に気付かせてくれる良書でした。