『資本政策立案マニュアル』(石割由紀人)
本書は、上場を目指すベンチャー企業と実務家向けに、資本政策立案のコンセプトと手法を解説した一冊です。資本政策の基本理論、具体的な資本政策の策定手順、ベンチャーキャピタルからの資金調達方法についてまとめられており、実際に株式上場した企業(ユーグレナ、フォトクリエイトなど)の事例分析も紹介されています。
■ひとことまとめ
投資家の価値観を押さえ、事業の魅力を一言で伝えること。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇ベンチャーキャピタル提出用事業計画の作成方法
①エレベーターピッチ
30秒で事業計画を話せるように。分厚いパワポよりも短時間で投資対象としての魅力を直観的に理解させること。
②エグゼクティブ・サマリー
A4用紙1枚程度。内容をすぐ判読できるように見出しを付けて箇所書きに。
③事業計画書の表紙
④会社概要・事業開始の経緯
⑤経営理念・基本方針
金儲けを超えた自社の基本的価値観、社会における存在理由
⑥会社の沿革
⑦業績推移
⑧経営陣の略歴・組織図
⑨株主一覧
⑩取引金融機関
⑪ベンチャーキャピタルが投資したくなる事業
・市場規模:ざっくり1,000億円以上の市場規模が見込まれるか
・10倍ルール:従来製品・サービスより同コストかそれ以下で10倍以上の価値提供できるか
・1/2ルール:成熟市場であっても、従来製品・サービスより倍以上の価値のものを同価格かそれ以下、もしくは同価値のものを半値以下で提供できるか
・急成長市場の関連分野をターゲットとする企業
・参入障壁はあるか
⑫ビジネスモデル図
自社のビジネスモデルがどのような事業構造で、想定顧客とどのような接点を持ち、どの部分で収益を計上するか
⑬事業の市場分析(市場規模、業界分析)
⑭競合他社分析
事業セグメント別に競合会社を示し、競合会社の特徴(取扱製品、事業展開等)、最近の動向、業界順位、市場占有率を記載することが望ましい
⑮自社のマーケティング戦略(4P)
⑯生産、仕入、開発体制
⑰事業化スケジュール
⑱主要販売先
⑲主要仕入先・外注先
㉑経営上の重要な契約
㉒保有設備状況
㉓会計処理基準
㉔関係会社
㉕社外機関
会計事務所、公認会計士、コンサルティング会社、監査法人、証券会社、信託銀行、印刷会社、弁護士など
㉖事業計画(数値モデル)
予想PL、予想BS、予想CF計算書
→販売計画、売上原価計画、外注費計画、経費計画(人員計画、人件費計画、広告宣伝計画など)、設備投資計画など
〇ベンチャーキャピタル(VC)の要求する期待利回り(IRR)
・シードステージ/スタートアップステージ:50~100%
・アーリーステージ(製造・販売開始段階):30~60%
・グロースステージ(損益分岐点を超える段階):20~30%
〇投資利回りと「114の法則」
VCによっては、投資額を少なくとも3倍で回収したいと考えている。投資額が3倍になるまでの年数を簡単に計算する方法がある。
「114÷利回り〈年利)=元手が3倍になるまでの大体の年数」
VCへ出資を求めるには、いかに投資の食指が動くような魅力が伝えられるか。投資家にとって投資先の選択肢は多数ある訳で、埋もれてしまわない事業計画はカギになると思います。具体的な作成は、相当なボリュームと専門性が必要であり、通常はコンサルタントとともに作成していくのが近道なのでしょう。
本書では、ファイナンスの基礎理論や実際に上場した企業の事例にも多くのページが割かれているので、ベンチャー企業が上場を目指す際の全体像をとらえるという観点でよくまとまっていると思います。