『ハーバードからの贈り物』(デイジー・ウェイドマン)(〇)
3月に大学院の卒業を控えたこのタイミングにぴったりの良書に出会いました。本書は、ハーバードビジネススクールの15人の教授が最後の授業で生徒に送るメッセージ集です。経営について、これでもかというほど勉強し、経営の中枢に飛び込む生徒たちにどんなメッセージを送るのか。教授たちから送られる人生訓と背景にあるエピソードがとても秀逸です。
■ひとことまとめ
ビジネスの武器は身につけた。あとはどう考え、どう生きるかだ。
(15人のメッセージまとめ‥本書より)
①転落から高みへ
~登山中に九死に一生を得た経験より~
学べる環境にいることは幸運だ。幸運を手にした我々は誰かの幸運を創り出す義務がある。
②なぜ人はあなたのために働くのか
~キャリアカウンセラーとしての経験より~
やりたいことを実現する側から、やりたいことを実現させる側へ。
③ラシュモア山での問い
~娘からの問いをきっかけに~
周囲の人々にどんな影響を与え、どんな変化をもたらしているのか。結果にこだわり、視野狭窄に陥り、リーダーとして大切なものを見失わないように。
④剥製の鳥
~大学院生時代の奇妙な試験の経験をもとに~
納得感がない、情報がない、周囲の雑音・・。それでも決断は下さないといけない。自分の勇気と自信を信じることは、大きなチャンスを逃さない大切なこと。
⑤自分らしくあれ
~偉大な先輩講師から~
「自分である必要はない。自分らしくあることだ」。仕事用のペルソナを持てれば、キャリアを築く過程で周囲の批判・攻撃に持ちこたえることができるし、傷つくことも最小限に抑えられる。家庭と仕事の自分を使い分けること。
⑥黒か白か
~ビジネスヒストリーを専門とする教授より~
的確な判断は自分の思考がどこから来るのか。そのルーツを知っておく必要がある。物事は白と黒ではなく、その間には様々な色がある。白と黒に分けようとしている自分がいるなら、その信念や考え方のルーツを考えてみよう。
⑦まずい食事と真実
~社員から役員に昇格した経験に基づいて~
待遇の変化と自分への影響を考えておくこと。周囲の自分に対する扱いは様変わりする。質問は命令だと解釈され、意見には反発せず、悪い知らせは入ってこない。真実は手に入らなくなる。組織の縁の下の力持ちとのコミュニケーションをどう保つのか。自分なりの工夫が試される。
⑧同窓会
~5年目の同窓会を意識して職業選択を誤る学生を見て~
人と比較しないということ。自分がどんな見返りを求めるか、成功の意味を狭くしない、長期的な視野を持つこと。バランス感覚を失わないように。
⑨完璧を求めるな
~偉大なる父の他界を機に人を全体で見るようになった経験から~
人は長所もあれば短所もある。そこに目を向けるか向けないか。完璧という名誉を求めるより、不正を犯すことがないように内省し、自分を客観的に見つめること。人間は聡明で複雑で欠点もある存在なのだということを受け入れよう。
⑩キャサリン・ヘップバーンと私
~電話中継となった講演経験を踏まえ~
自分のやり方で自分自身の声を聞いてもらうこと、自分で自分を笑ってもパワーは減るどころか増すばかり。二言三言良く考え抜いたフレーズが話せ、その場の主導権を握ることはリーダーに必要な資質だ。
⑪サラの物語
~母親サラの職業と働き方に基づき~
あなたは人生で多くの人に支えられてきた。会社にはあなたを直接助けてくれる人の他、多くの縁の下の力持ちである存在の社員がいる。あなたが権力を持ち、リストラなど他の人々の生計、人生を左右する決断をするときは、一人ひとりの人生に思いやりと敬意を示してほしい。あなたの決断で人生を変えられる人はただの数字ではない。生身の人間だ。
⑫今という瞬間を生きよ
~バスケットコーチへの道を怪我で断たれた経験から~
没頭して当たり前と思う時間は特に意識されずにあっという間に過ぎていく。しかし、その時間は二度と戻らない。今やっていることは、永遠に続けられるわけではない。限りがある時間、今を生き切ることだ。
⑬レース
~ベーカースカラーの計算の誤りに気づき正直に申し出た真摯な学生のエピソード~
人生に逆らわない力、悪運に見舞われない運、金もうけだけを求めない態度、公正さ、それはそれで大事だが、私利私欲に惑わされない正しく適切な判断力があってこそ、それらは活かされる。
⑭誓い
~経営者の不正行為によるイメージ低下に直面して~
経営者には他の業種とは異なり行動規範がない。法律に書いてあるようなことの繰り返しではない行動規範を作ってみてはどうだろう。経営者に不正行為をなく、イメージ低下を食い止めるためにも。
⑮自分を見失わないで
~今は亡き両親の教え~
人生には自分がなすべきことがぼやけてきて未来をどう描いていいか分からないときもあるであろう。入念に考え、賢明な選択をせよ。自分の人生を律する価値観や信条を見極め、それに忠実であれ。目標を高く掲げることを恐れず、自分を見失わず、思う存分ハイカントリーを駆けよ。
社会人としての立場で学ぶビジネススクール。学んだことは即実践。活かすかどうかは自分の考え方、行動次第。教授陣のメッセージは、高い立場に立っても、おごらず、謙虚に、しかしリスクを恐れず思い切ってチャンスをつかめということかと思います。卒業してからが本番ですね。良いタイミングで読んだと思います。