『仕事の技法』(田坂広志)(〇)
田坂さんの新刊です。本書は、「仕事の技法」の根幹をなす「対話の技法」について、23話の対話事例を用いながら非言語の重要性がまとめられています。本書では非言語の世界を「深層対話」とし、深層対話の技法を身につけ、深層対話力を高めることが仕事力を飛躍的に高めていくとされています。この深層対話力をいかにして身につけるか、また深い著者の世界観が広がっている一冊です。
■ひとことまとめ
相手の言語と非言語のギャップを感じ取り、自分が発する非言語を自覚する
(印象に残ったところ‥本書より)
〇要点
深層対話の技法を身につけるためには、日々の仕事における言葉以外のメッセージの交換を振り返り、細やかにそして深く反省すること。経験したことを冷静に、理性的に顧みる「反省」は、経験から知恵を掴むための極めて合理的・科学的な方法。
〇振り返り
仕事においては、相手の「作業」を楽にしたかだけでなく、相手の「心」を楽にしたかを振り返ること。「働く」とは「傍」(はた)を楽(らく)にすること
〇言葉以外のメッセージの着眼
言葉のメッセ―ジと言葉以外のメッセージの食い違いに留意すること。そのためには、深層対話力が必要。
・相手の無言の言葉の声に耳を傾ける力
・相手の沈黙や一瞬の間から心の動きを感じ取る力
・相手の言葉の奥にある感情や心境を感じ取る力
・相手の表情や仕草から変化を感じ取る力
・相手の言葉のニュアンスから細やかな思いを感じ取る力
・相手の置かれた状況や立場からその考えを創造する力 など
〇直後の反省会
商談・交渉・会議などの後には、必ず「直後の反省会」を行うこと。追体験し心の動きを想像する。その際、相手の視点に徹し、相手の心の動きを想像すること。
顧客や出席者の表情・仕草・動作に着目し、感じたことや気になったことを複数のメンバーの視点で振り返ると見落としを最小化できる。自分が何を考えたかよりも、自分が何を感じたか、何が気になったかを振り返ると良い。
〇自己評価の留意点
自己評価が「小さなエゴ」、つまり自分を正統化しようとする解釈に陥らないように注意すること。そのためには、自分を客観的に見るもう一人の自分(静かな観察者)が必要。
〇操作主義に陥らないように
相手を動かそうとすること自体が操作主義ではない。相手に対する敬意を持たず、相手を一人の人間として見つめず、あたかも物を動かすように、自分の思うままに操ろうとすることそれが操作主義。操作主義は必ず見抜かれる。操作主義に流される人間は、それが見抜かれていることに気がつかない。それは、「下段者、上段者の力がわからない」(力が劣る下段者は力が勝る上段者の力がわからない)から。
〇現場での修練
心理学だけで相手の心を知ることはできない。心理を感じ取る修練だけが、それを可能にする。何よりも数多くの人間と心で正対し、相手の細やかな心の動きを感じ取る、現場での修練を積み重ねるしかない。
〇もう一段進んだ深層対話力
深層対話力とは、相手の言葉以外のメッセージを感じ取ることだけでなく、相手に言葉以外のメッセージを伝えることであり、相手に無意識に伝えてしまっている「言葉以外のメッセージ」を自覚することでもある。本当に優れた深層対話力の奥には、必ず優れた「人間力」がある。
最後に、操作主義のおもしろい寓話がありました。あの有名な『北風と太陽』。北風が旅人のマントを脱がすのに失敗した後に、太陽が「私が旅人のマントを脱がしてみせましょう」と言って旅人をポカポカと温める。ここまでは寓話と同じ。この話には続きがある。旅人は太陽に向かって、「太陽さん。そうしてポカポカと温めて、私のマントを脱がそうとしているのでしょう。でも残念ながら私はあなたの思うようにはなりませんよ・・」。操作主義を見事に表していますね。知らず知らずにうちに陥っていそうで相当自覚していないと気づかない、要注意ですね。