MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

これがガバナンス経営だ!(冨山和彦、澤陽男)

『これがガバナンス経営だ!』(冨山和彦、澤陽男)(〇)

 経営共創基盤CEOの冨山氏と同ディレクターで弁護士の澤氏の共著です。本書は企業のガバナンスの要諦をまとめたもので、経営書としてのガバナンスのあるべき姿、そこから生じる様々な論点について、長期持続的に企業価値を高めるための実質論として実務的なガイドラインを提示することを目的として書かれています。

 

■ひとことまとめ

 コーポレートガバナンスのカギを握るのは、独立社外取締役のモニタリング機能

 

(印象に残ったところ‥本書より)

コーポレートガバナンスの射程は、守りのガバナンス、すなわちコンプライアンスだけではない。企業の持続的かつ長期的な成長を実現する攻めのガバナンスにこそ、コーポレートガバナンスの中心的な課題がある。

 

〇今後日本社会が目指していくコーポレートガバナンスは、株主至上主義でもサラリーマン共同体至上主義も乗り越えた、新たなステークホルダー主義ガバナンスという第三の道を邁進していくことであり、長期持続的な企業価値の成長を実現していかなければならない。

 

〇株式会社とコーポレートガバナンス

 失敗に対して無限の責任を負うからこそ、うまくいったらアップサイドを全部とれるという構造が本来は公平で倫理的な制度。株式会社はアップサイドは無限で、ダウンサイドは有限の、ある意味、お気楽で無責任な制度。すなわち、非倫理的なリスク、モラルハザードを内包するものとして例外的な存在であり、本来であれば厳格に制限され、統制されるべき存在。この潜在的な非倫理性こそが、株式会社においてコーポレートガバナンスが重要である根源的な背景のひとつ。

 

〇株式会社と統治機構

 株式会社とは有限責任という恩恵が与えられているがゆえに巨大化し、そのために社会的に与える影響も当然大きくなることから、より厳格に規制される対象であり、より多くの強行法規による組織ルールに基づいて統治されるべき存在。だからこそ、今でも会社の機関設計については、各社の全くの自由裁量ではなく、取締役会や株主総会の設置が求められている。

 

〇株主と経営者

 責任ある投資行為と責任ある議決権行使とその前提となる透明な開示を基盤として、長期的な企業価値向上のために株主と経営者が建設的な対話を継続的に行うことが、過去の歴史から導き出される、あるべき実践的なガバナンス論の要諦。

 

〇ガバナンスの歴史

 かつてはメイン銀行やメイン銀行から派遣されてきた取締役が守りの企業統治に関して特に重要な役割を果たしてきた(これは、今でも非上場企業では数少ない有効なガバナンスモデル)。その後、メイン銀行の役割が衰退する一方で、株主によるエクイティーガバナンスが未成熟であったため、日本企業にはガバナンスの空洞化が起こった。要は、内部者による「ムラ型ガバナンス」であり、外部のステークホルダーからの規律付けという、ガバナンスの核心部分を欠く状況が生じていった。

 

コーポレートガバナンスの本質は、経営トップの選解任権にある。モニタリング中心の取締役会で、その選解任権を実質的かつ効果的に行使できる状況を担保することが、ガバナンス経営の要である。すなわち、和魂洋才の精神で世界の様々な経営モデルから学び、日本流へ昇華させていくべきはモニタリング重視の取締役会である。

 

〇独立社外取締役

・2014年6月の会社法改正案成立‥「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明させるという改正がなされた。これにより社外取締役が実質義務付となった。

・独立社外取締役が中心となって構成される指名委員会を設置することによって、経営幹部、特にトップ経営者選任の手続きに客観性・透明性を持たせることが、本来のガバナンスを機能させるためには、ほぼ論理必然の到達点。

・企業の最高かつ最重要な権力作用であるトップ人事に真剣勝負で関わらないコーポレートガバナンスや独立社外取締役は、単なる「ごっこ」にすぎない。

・独立社外取締役は、自分の意見が取締役会の過半を占めるか否かに関係なく、いざというときのために、常に、「解任動議提出権」という伝家の宝刀に手をかけて取締役会に臨む気迫と覚悟が求められる。

 

 本書ではこのあと第Ⅱ部として、ストーリー仕立てでより具体的にコーポレートガバナンスコード解説がされています。取締役会、独立社外取締役の役割がかなり重要ですが、日本企業ではあるべき姿からはまだ遠い企業が多いという現状。今後、この分野がどう変化していくのか。独立社外取締役を切り口として企業経営のかじ取りを見てみると企業の違った一面が見えてくるのではないかと思います。

決定版 これがガバナンス経営だ!  -ストーリーで学ぶ企業統治のリアル
 

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