『クロネコヤマト 人の育て方』(水迫洋子)(〇)
本書は、ヤマト運輸において人材育成がどのように実践されているのかがまとめられています。「全員経営」「世のため、人のため」。当たり前と思ってしまうことも、本当にできているか?と問いかけられると、う~んと唸ってしまいそうな言葉を愚直に実践する企業。ヤマト運輸のサービスを支える仕組みには、自社や自分自身を省みるきっかけがあります。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇3つの「ない」
①マニュアル接客をしない(⇐現場に任せる仕組みがある)
②成果だけで社員を評価しな(⇐人間性を重視する制度がある)
③指示待ちの社員はいない(⇐全員経営という理念がある)
〇環境づくり
環境アプローチによる育て方は、会社が枠を決めて計画的に育てる教育プラントは違う。ばらつきがあり、計算がつきにくいのが特徴。そこまでしないと「人」は育たないのかと思うくらい環境づくりにエネルギーをかけている。
・環境づくりの基本スタンス
①一人ひとりが活躍できる場、成長する機会を用意する
②会社は社員が育つための支援・環境づくりを重視する
・社訓(判断基準)
①「ヤマトは我なり」(全員経営)
一人ひとりがヤマト運輸の代表者なんだという自覚
②運送行為は委託者の意志の延長と知るべし(サービスが先、利益は後)
お客さまの心を運んでいるという自覚
③思想を堅実に礼節を重んずべし(法と倫理の重視)
礼儀作法、服装、態度、一期一会の精神で接していくこと
・事業の志(目的)「世のため、人のため」
〇4つの環境
①社訓(理念の共有)
毎朝の唱和だけでなく、セールスドライバーたちが仕事の合間にメンバー同士でその日の出来事を話しながら、社訓にある言葉を自然に使って、お互いの仕事の仕方や判断について考え合っている姿が見られる。
「そのココロは?」という意味や言葉の背後にある目指すべきものが実感されないと、伝えても心に刺さらず、現場がその気にならない。
②チーム(少数精鋭のセンター小集団)
配属後は先輩の仕事を見ながらサービスドライバーの精神やサービスの仕事を学ぶ。4S(Service、Safety、Sales、Super)を自分のものにさせる。センターのドライバーは平均9~12人。助け助けられのチームプレーが培われる。
③接客(お客さまとのやりとり)
お客さまとのやりとりを通じてクロネコブランドの価値を知り、セールスドライバーの自覚が生まれる。お客様から名前で呼ばれて一人前。
④人事制度(しくみ)
本人が望めば「経営者にもなれる」天井なしの成長支援環境が容易されている(実際に、セールスドライバー出身の経営幹部はたくさんいる)
〇本社スタッフ
必ず一度は、宅急便センターなどセールスドライバーが働く第一線で一緒に働く経験をする。そもそも現場のやりがいを左右するものはなにか。自ら成長しようと使用する人の意欲を伸ばすためには、経営への信頼が大きな要素となる。
〇クレームに専任者なし
現場で起こったことは、自分たちの仕事の結果として現場が受け止め、完結させる。本社にクレームの電話があっても対応は現場が責任を持つ。
〇店をつくって持たせる
第一戦の支店長もサラリーマンではなく、商売をやっている感覚になってほしいから、まず「自分の店を持ててよかったね」と、「センター」ではなく「店」として自分事化させる。店をつくって持たせるというのは、サービスが向上して人が育つという好循環を生み出してくれる効果的な方法。
〇人事制度の特徴
①「部下からも同僚からも見る」管理職を多面評価
③「セールスドライバーであっても役員になれる」制度に
④役職は「やる気のある人がやる」立候補制に
⑤就いたポストに安住できない降格・入れ替え制に
確かにヤマト運輸のセールスドライバーの方は、対応が気持ちいい。不在者連絡票が入っていても、夜に電気がついて帰宅しているのがわかると、こちらから連絡していないのに立ち寄ってくれることもある。運転も接客も末端の現場は一人のサービスドライバーが背負うことになり、その評価の集合体が会社のイメージに繋がるという事業の特性もあり、一人ひとりに考えさせ、自覚させ、行動させるという考え方が明確であると感じました。人材育成の事例として参考になると思います。