第六巻「パクス・ロマーナ」は、丸ごと一冊初代ローマ皇帝アウグストゥス。共和制から帝政へ移行し、統治構造を固めた内政の人。身体も弱く、軍事面は盟友である武人アグリッパに委ね、自らは、国勢調査・軍備削減による財政再建、内閣創設、国税庁創設、通貨改革、選挙改革、食料安保、少子化対策など、次々と施策を実施していく。
前書きには、「アウグストゥスは、見たいと欲する現実しか見ない人々に、それをそのままで見せるやり方を選んだ。ただし、彼だけは見たくない現実までも直視することを心しながら、目標の達成を目指す。天才(カエサル)の後を継いだ天才でない人物が、どうやって、天才が到達できなかった目標に達せたのか。それを、これから物語ってみたい」と魅力的な紹介があるように、地味ですが、すごい人の物語です。
(第Ⅵ巻のポイント‥本書より)
〇主な年表
・紀元前44年3月:カエサル暗殺。翌日、オクタヴィアヌス(のちのアウグストゥス、当時18歳)を第一相続人・養子・名前の承継者とする遺言状開封。
(ここから本書スタート)
・紀元前28年:42年ぶりの国勢調査実施、30年間続いた情報公開制度改正、元老院を1000人→600名に削減
・紀元前27年:共和政体への復帰を宣言。元老院は尊称アウグストゥスを贈ることを決定。アグリッパとともに、ガリア問題の処理にとりかかる。
・紀元前26年:スペインへ移動。イベリア半島の完全制覇に着手。
・紀元前24年:3年半ぶりにローマ帰還。
・紀元前23年:通貨改革着手。
・紀元前18年:姦通罪・婚外交渉罪法、正式婚姻法制定。
・紀元前13年:「平和の祭壇」建設に着手。最高神祇官に選出される。
・紀元前12年:アグリッパ死去。ゲルマニア進行開始。
・紀元後4年:ティベリウスを後継者に決定。
・紀元後5年:ローマ軍、14年ぶりにエルベ河に達する。
・紀元後14年:『業績録』を書きあげナポリで死去。
〇印象に残った言葉など
・人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ない。
・秘密とは、それを所有する者の権力を増すうえで、最も有効な手段である。
・アウグストゥスという男は、書き手を強烈に触発するタイプの人物ではなかった。魅力がないのではない、魅力は充分にある。ただその魅力が、作家の胸を熱くさせるたぐいの魅力ではなく、作家の頭脳を冴え返らせるたぐいの魅力なのだ。前者には感動し、後者には感心すると言い換えてもよい。時代の流れを変えた男と、その後に現われてそれを確実にした男の違いであろう。
・イメージが先行すること自体は悪いことではない。悪いのは、具体的なことは何一つ伴わず、イメージのみが独り歩きする場合である。
・新税とは、古今東西の別なく不評なもの
・私見にすぎないが、納税者が節税や脱税に情熱を傾けるようになるのは、直接税なら10%、間接税なら5%からではないかと思ったりしている。
・指導者に求められる資質は、次の5つである。①知性、②説得力、③肉体上の耐久力、④自己制御の能力、⑤持続する意思。カエサルだけがこのすべてを持っていた。
(イタリアの普通高校の歴史教科書より)
・知性とは、知識だけではなく教養だけでもなく、多くの人が見たいと欲する現実しか見ない中で見たくない現実まで見すえる才能であると思うが、見すえるだけでは十分ではない。見通した後で、それがどの方向に向かうのが最善の道であるかも理解してこそ、真の知性と言えるのだと思う。言い換えれば、創造性を欠く現実認識力は、百点満点の知性ではない。