MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

ローカル企業復活のリアル・ノウハウ(冨山和彦)

『ローカル企業復活のリアル・ノウハウ』(冨山和彦)(〇)

 「ローカル経済圏は改善余地の宝庫である」。数々の地方企業の再生を手掛けてきた著者のノウハウが詰まった本書。姉妹本『経営分析のリアル・ノウハウ』『ビジネスプランニングのリアル・ノウハウ』と合わせて、企業再建に着手する際の着眼に役立つ、今回も実践からの還元が満載の新刊でした。

 

■ひとことまとめ

 当たり前のことを当たり前にやる。労働生産性に着目した生産性向上。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇カギは「生産性」

 人口因子よりも生産性因子のほうが効いている。地方は、競争という観点からは、人口減少によって「縮む」イメージがあるがゆえに、競争者が殺到するリスクは小さい。

 大事なのは稼ぎの出元が域外か域内かに関係なく、自らの絶対優位、比較優位を見極めてちゃんと生産性の高い仕事をし、しっかりと収益を上げ、その上昇分を賃金と将来投資に回す好循環を創り出すこと。

・100m10秒を8秒に縮めるのと、30秒を20秒に縮めるのとどちらが簡単か

労働生産性=付加価値額/総労働時間

 

見える化

 会社の実態を知るには、まず「見える化」。

・どこが儲かっていて、どこが儲かっていないのか

・どの事業部門や拠点や、顧客や商品によって、企業の収益を支えているのか

労働生産性の試算

・配賦前利益(貢献利益)の把握

・会社の稼ぐ力が返済をしないといけない正味借入に対する水準

・資金繰り分析

 

〇「事業」「財務」「組織」「経営・ガバナンス」の健全化

・事業

 10年後、20年後にこの事業は存続しているだろうか?という問いにクリアにシンプルに回答できなければ、事業性評価をしてみる。儲かるユニットしかない集合体にする。

■道具

「選択捨象マトリックス」(コア・ノンコア×good・badの4象限)

「改善積み上げ滝グラフ」(施策別効果:ウォーターフォール

・財務

 財務リスクをとることよりも手元資金のバッファ。資産回転率の抜本的改善を。

・組織

 何といっても賃金。以下の2指標は健全性の目安。

労働生産性」:付加価値/総労働時間

労働分配率」:給与水準(人件費/付加価値)

・経営・ガバナンス

 ①仕組みとして、聞きたくない話がトップの耳に入る、または直言できるか、②トップの解任が発動されるように経営トップ自らが実効性をキープしているか

 

〇顧客エコノミクス

 「こだわり」を持つ領域や方向性について、どのように「こだわる」ことが妥当なのか?とくに、顧客の満足度を高めるための「こだわり」と、事業価値の拡大のための「こだわり」。この2つを接合させる大切な切り口が「顧客エコノミクス」。

 しっかりやるべきことはしっかりやるが、しなくてもよいことはしないの、「しなくてもよい」を何で判断するかは意外と難しい。その判断軸こそが、「事業的な物差し」。

 

〇事業の特性把握マトリックス

 業種固有の重要な打ち手、はずしてはならないセオリーが浮かび上がる。対象とする事業がどの類型に属するかプロットするだけで競争上踏まえるポイントが見えてくる。

・供給側からの整理:「付加価値の厚さ・薄さ」×「競争要因の数」の2軸

・需要側からの整理:「顧客やチャネルの地域性広・狭」×「顧客エコノミクスのインパクトの大きさ」

 

 本書の最初のほうに、「当たり前のことを当たり前にやる」「ウルトラCもなければ、マジックもない」「やりきる覚悟と実行する人材、そしてちょっとしたノウハウさえあれば誰でもできる」とあります。これが、再生現場のリアルな声だと受け止めました。結局、あれやこれや分析して考えても、実行段階で強いストレスがかかり、そこを乗り越えられるかどうかでほぼ決まるということかと思います。
 そして、中盤~後半戦に記載されている、業種別改善の視点、銀行との付き合い方。感覚的にマッチしており、まさに「リアル」です!

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