『戦略思考の鍛え方』(冨山和彦、岸本光永、石田諭)(〇)
本書は、経営共創基盤CEO冨山氏、ディレクター石田氏、ファイナンシャル・アナリスト岸本氏の共著。戦略立案だけでなく、決定・実行するための方法論を理論と実践を往復しながら体系的に解説されています。経営戦略の基本を学ぶ際に、考えるべきことの全体像をざっと把握するという点で使いやすい一冊です。
■ひとことまとめ
考えるべきことをストーリー化したうえで「実行」に集中する
(印象に残ったところ‥本書より)
〇経営力=決断力×実行力
・決断力(意思決定の内容は的確か?意思決定のタイミングは適切か?)
・実行力(現場の能力は十分か?現場を戦力化する指導力はあるか?)
〇経営の基本方程式:売上ーコスト=利益>ゼロ
・どうやって売上を増やすか(営業・マーケティング)
・どうやってコストを管理するか(生産管理・コスト管理)
・売上とコストの経済的整合性をどう取るか(事業経済性)
・経営資源を手に入れるための金回りをどうするか(財務)
・ヒトと組織をどうやりくりするか(組織・人事)
・こうした事項の統合的な施策体系(戦略)
・こうした経営行為をいかに記録し認識するか(簿記・会計)
⇒まずは自分のやっている事業の儲けの仕組みを理解し、見極めておくこと。この事業特性に対する正しい理解を基盤にすることで、売上を増やし、カネが回り、持続的に利益をあげていくための施策体系(戦略)立案が可能となる。
〇リスクに対応する経営者の姿勢
・将来のことに対して謙虚にあるべき。忌憚なく、広く意見を聞けるようになること
・理屈だけでなく、気づきを大切にする
・部分にとらわれず、常に全体を見て、考える姿勢を持ち続ける
〇社会の中で評価される企業の基本要件は「継続性」
・企業の目的は何かを問うこと
・重要なことは企業として、「何を行うか」
「三方(売り手・買い手・世間)よし」(近江商人の心得)
「公益を先にして私益を後にすべき」(名古屋鉄道創業家、神野家家訓)
「商いの原点はどうしたら売れるか儲かるかではなく、どうしたら人々に心から喜んでもらえるかである」(松下幸之助)
〇現場との対話(戦略は実行するためにある)
・現場との討議では経営者は戦略目的を丁寧に話し、次にどのように実現するのかは、聞くことに徹することである。現場の雰囲気から、だいたいの方向性が出てくるのを待つこと。具体的な目標の設定まで討議してもらう。ここまで来れば、戦略計画の半ばは進行したことになる。
〇戦略思考とは
①戦略的事業単位(SBU)を括り出す
②顧客市場を正しく認識する
③競争状況の実態を把握する
④自社の実態、特に経済性(Economics)を見える化する
⑤ポートフォリオ的な優先順位付け発想で「あれかこれか」を突き詰める
⑥バリューチェーン上の優先順位づけ・ポジショニングを行う
⑦顧客経済性(スイッチングコスト)に着目する
⑧戦略としてストーリー化する
〇事実を把握する手法
①論理的思考
・言葉の定義と意味を明確にする
・事実を正しく捉える
・現在の状況を正しく認識する
・曖昧な言葉は使わない
・自分の意志を正確に伝える
・妥当性を常に追求する姿勢
②システム思考
問題解決の基本は因果関係の解明。システム思考は、物事の全体像をとらえ、そこに動く様々な力の相互関連性に目を向け、それらを共通のプロセスとして理解するために思考の枠組みを提供するもの(出来事・事実⇒パターン⇒構造・体系)。
SWOT分析は、現状を客観的に分類・整理してみるための方法にすぎない。将来の戦略に直接的に役立つものではない。社員や関係者が現状を把握して、認識を一致させる方法として意義がある。
約260ページに戦略思考の要点がよくまとまっている良書だと思いました。結局のところ、戦略思考とは、「何を考えるべきか」「どのような流れで考えるのか」「実行力を高めるためにどう行動すべきか」ということを繰り返し自問して、考え抜く、行動しきること。また次の課題が浮かんでくる中で、このサイクルをまわし続けていくことかと思いました。螺旋状に成長しつづけるために持っておきたい基本的なビジネス思考力だと思います。
ビジネスモデルを劣化させない戦略思考の鍛え方 (日経ビジネス人文庫)
- 作者: 冨山和彦,岸本光永
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2016/02/02
- メディア: 文庫
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