MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

この国を作り変えよう(冨山和彦、松本大)

『この国を作り変えよう』(冨山和彦、松本大

 2008年12月に経営共創基盤CEOの冨山氏とマネックスグループCEOの松本氏の共著により発売された本書。サブタイトルに「日本を再生させる10の提言」とあるように、リーマンショック直後の経済がどん底の状況の中、経済復活に向けてなされた提言です。事業家らしい観点からの切りこみが魅力な一冊です。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇日本を若返らせる10の提言

①20代の政治家・官僚・民間人による「未来内閣」設置

②世代別選挙制度の実現

③現在の公的年金制度を解散、保険料は全額返還

④地方中核都市への人口一極集中化を誘導

参議院憲法審議機関とする

⑥正規社員と非正規社員の区別撤廃

外資系製造業を積極的に誘致し、日本国内にマザー工場設置を促す

⑧上場企業には会社法で認められた範囲以上に厳格なルールを適用

⑨経済犯の罰金を不正利益の10倍のルールに

⑩戸籍制度の全廃と婚外子の権利制限撤廃

 

〇格差問題

 本気で既得権の内と外の格差問題を解決しようと考えるなら、それまで生み出している制度や規制を撤廃して市場が効率的に機能するようにすればいい。でもそれをやってしまったら、規制があることによって利益を得ている層が、その利益を手放さなければならなくなる。そこで、彼らは密かに「格差があるのは市場経済のせい」というすり替えを行って、搾取されている人たちの目を真の原因からそらし、意図的に格差の温存を図っている。

 

〇格差はあっていい

 正規と非正規の壁なんてなくしてしまったほうがいい。ここの能力に応じて新たな格差が生まれるとしても、それはフェアな競争の結果なので、むしろあるべき姿。国民の税金を使うのであれば、そういう競争ができるよう環境を整えるために使うべき。大事なのは誰もが一様に利益を手にすることではなく、全体の総和を増やすこと。増えた分をセーフティーネットに回す。そういう政策に転換すべき。

 

〇経済犯罪

 最低でも検挙率の逆数を不正利益に掛けた金額を罰金に設定しないと、儲かる確率のほうが高くなるので、やったほうがいいということになってしまう。つまり、現行の法律は、経済犯罪を計画している人に、むしろインセンティブを与えてしまっている。

 

〇デビエント(deviant):逸脱した人

 メディアは、ネガティブ・デビエントは大きく扱うのに、ポジティブ・デビエントを称賛することは少ない。型破りな成功者が尊敬されれば、みんながあの人みたいになりたいと頑張るので、社会全体の活力が増す。

 

〇法学部出身者

 未来のインセンティブ・デザインを描くようなことは一番苦手なはずなのに、なぜか日本では、そのポジションに法学部出身者がたくさんいる。このことも日本がなかなか変われない原因の一つ。

 

〇年金制度

 今の年金制度をどう修正を加えたところで、破たんを避けることはできないので、解散しかない。国民が支払った保険料は国民に返還する。一旦、オールリセットして、あらためて積立型、しかも老後の所得保障という年金の本旨に忠実な年金制度を一から作り直す。積立型にするということは、所得の再分配をするなら、同じ世代内でやってくださいということ。

 

〇成功体験の無い世代

 日本が長らく変わらなかった理由の一つは、焼け野原から復活して世界第二位の経済大国を作り上げた成功体験。あまりにも強烈だったので、自分たちのやり方は正しいという妙な自信を今リーダーシップをふるっている世代の人は持ってしまった。成功体験がない若い世代は、現在のスタイルに固執する理由などないので、このままでは世界の中で相手にされないと感じれば、躊躇なく世界標準を受け入れるだろう。

 

 事業家のお二人なので、競争社会を前提として経済活性化のために必要な観点をズバリと切り込んでいらっしゃると感じます。格差はあって良いもの。総和を拡大し、セーフティネットに金を回すというあたりが、事業化視点でないとなかなか言えない点かと思います。世代を超え、成功体験の無い世代が太宗を占めるとき、どんな日本になっているのでしょうかね。

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