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MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。MBA講座と歩む読書生活。講座関連の書籍、講師お薦め本などを紹介。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキルなど、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

小林一三(北康利)

小林一三』(北康利)(〇)

 阪急東宝グループ創始者小林一三さんの生涯を綴った一冊。若い時は銀行員でしたが実家の資産力をバックに、相当やんちゃで遊んでいたといた頃の様子や、ビジネスに腰を据えてからの研ぎ澄まされた感覚や豊かなアイデア事業化していく実行力が見事に描かれています。著者の作品では『経営の神様と呼ばれた男』を読んだときにも感じましたが、経営者を見る観点が面白く、とても読みやすい作品を書かれます。名経営者の一人として、一度は読んでおきたい方だと思います。

 

■ひとことメモ

 自分の出来る範囲で世の中に「貸勘定」をつくる。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇幼くして孤児となり2歳で家督を継ぎ、肉親とのつながりも希薄で故郷の韮崎に帰ろうとはしなかった。こうした屈折した心情が良く言えば不羈の風を、悪く言えば圭角の多い性格を与えたに違いなく、時として非常にもなれるところが、経営者として体制できた一つの要因となった。

 

〇一三は、経営者になる覚悟を行動で示した。箕面有馬電気鉄道の全発起人を相手に、会社設立に失敗した際はその損失すべてを彼がかぶることを条件として、新会社運営の全権を自分に委ねて欲しいと申し出た。失敗すれば、四、五万円(現在の4~5億円)くらいは自腹を切らねばなるまいと覚悟をしていた(自叙伝)。

 

〇1910年開業当時に、「あのような田舎電車をつくるのは阪神電車に売りつけるのが目的だろう」という噂が絶えないときの正直な気持ちを次のように述べている。「私もその頃は、いくら気張っておってもこの先どうなるか分からない未経験の事業である。この田舎電車に苦労するより阪神電車と合併ができて、幸せにできれば阪神電車の重役になれるのであるから、不平どころか内々に期待していたのである」(自叙伝)。その後話は流れ、約100年を経て、立場が逆になり、阪神電車グループを吸収することになる。

 

〇”コピーライター”などという言葉のまだなかった時代だが、間違いなく小林一三は広告の歴史に残る名コピーライターであった。名経営者と呼ばれる人の多くは、この右脳と左脳を実にバランスよく使っている。彼らはまず右脳の想像力を働かせて先を読み、チャンスとリスクの所在を把握し、目的にたどり着くための青写真をイメージする。次にそれを部下たちと共有するため、あるいは顧客にPRするために、左脳を働かせて力強いメッセージを発信する。まさにこの左右脳をフル回転させて成功したのが小林一三。阪急沿線が高級住宅地というイメージを持ったのは、実に小林一三の街づくりのセンスの賜物。

 

〇「箕面以外にこれといった観光地がないのなら娯楽施設をつくればいいんだ。新温泉は我が国における初めての構想であり、大理石の浴槽と宏壮な施設により毎日何千人の浴客を誘致して繁盛した(後の宝塚ファミリーランド)。さらに宝塚歌劇団誕生へ繋がる。

 

〇「法律がこういう規定になっていますので難しいです」という部下の報告に対し、「法律などというのは人間の作ったもので、誰もが不平を持つような法律はすぐに変わるよ。法律が変わることを前提にして考えてみたかね」と一三。

 

〇危機管理

 危機が起きてそれを上手に処理すると、周囲から称賛の声が集まる。しかし、これは危機管理として最善ではない。最善の危機管理とは、危機の発生を未然に防ぐことにある。危機が起きないから人々の耳目を集めず、発生を防いだ人間の知恵と努力も表に出ない。だが優れたリーダーは、そうした地道な仕事を日ごろから黙々とやっているものである。

 

〇阪急百貨店の食堂でライスだけ注文し、ソースをかける客が急増したことに対し、従業員は「ライスだけのご注文はご遠慮くださいマセ」という張り紙をしたことに対して。「確かに彼らは今は貧乏だ。しかしやがて結婚して子供を産む。その時ここで楽しく食事したことを思い出し、家族を連れてまた来てくれるだろう」と言い、「ライスだけのお客様歓迎します」という紙を入り口に貼らせたのみならず、新聞広告に「当社はライスだけのお客様を喜んで歓迎いたします」という言葉を入れさせた。

 

 書ききれませんが、逸話の多い方です。豪快で繊細、厳しくもありユーモアでもある。演じることもあるが、実は自然体で生きている。そんな人間性に魅せられ、人が集まり一大ビジネスを築き上げたのだと思うと、成し遂げたことの大きさを感じずにはいられません。あのドラッカーの著書にも事例として阪急のビジネスモデルが取り上げられています。経営者の人物伝はたくさんありますが、お薦めの一冊です。

小林一三 時代の十歩先が見えた男 | 北 康利 | 本 | Amazon.co.jp

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