『ダントツの強みを磨け』(坂根正弘)
「ダントツ」で有名なコマツ相談役坂根正弘さんの私の履歴書をもとにした一冊です。先日、坂根さんの講演を聞く機会に恵まれましたが、ドローン、ICTによる「施行の見える化」の現実を知ってびっくり。最先端の工事現場はここまで進化させているコマツを成長させてこられた取り組みを知ることができることができます。
■ひとことメモ
ダントツとは、「選択と集中」。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇ダントツ
・ダントツを実現する極意とは、何かを「あきらめること」「断念すること」。ダントツの強みを磨くという考え方は、「差異化戦略」と言い換えることができる。
・ダントツを目指さない社会、競争のない社会や産業は廃れる。知恵を出した人もそうでない人も得られる成果が同じなら活力を失う。
・コマツでは、世界1位の商品が売上の半分。2位まで含めると売上の85%。
〇中興の祖、河合社長のことば
「JISに満足していてはダメ。品質最優先で、もっとレベルの高い自分たちの独自の規格をつくれ」。「JISを守っていればまぁ合格点」という時代にこのメッセージはみんなをびっくりさせた。「経営者には言葉力が不可欠だ」という持論の原像がここにある。
〇クレーム対応は「知行合一」
王陽明の「知行合一」。知ることと行うことは実は同じこと。行動や実践を通じて身に付くのが本当の知識であり、逆に頭の中にあっても、それが仕事や生活で役立たないのであれば、真に知っているとは言えないという意味。クレーム対応はまさに知行合一であった。
〇ミドルアップ・ミドルダウン
日本企業の強さの源泉。現場の実情をよく知る課長クラスが上層部に対して意見や提案を具申したり、一人ひとりの課員に気を配って、彼らのモチベーションを引き出したりすることで、企業は前に動いている。中間に位置する人が深く考えて下に展開することで、組織全体の能力が底上げされていく。これに対して、アメリカでは、中間管理職は「介在者」という扱い。
ここが競合に比べて劣っているという議論に終始すると、どんどんカドが取れて平均点より少し上の面白みに欠ける商品群となる。そこで、営業と開発の責任者を呼んで、「新機種を開発するときは、最初に何を犠牲にするか決めろ」と指示をした。競合に負けてもいい部分を最初に決めておき、浮いた経営資源を「環境」「安全」「ICT」といった重点分野に投入するといったメリハリ路線。「平均点主義」の枠から解放され、突き抜けた提案が生産部門や協力企業からも上がってくる。言葉ひとつで組織がここまで変わるのは新鮮な発見だった。
〇コーポレートガバナンスの5本柱
①取締役会を活性化すること
②全ステークホルダーとのコミュニケーションを率先垂範
③ビジネス社会のルールを遵守する
④リスクの処理を先送りしない
⑤常に後継者育成を考える
〇コマツでないと困る度合を高める
・レベル①:コマツは付き合うに値しない
・レベル②:コマツの話くらい聞いてやろう
・レベル③:コマツを買って損はしなかった。他と同じくらい。でも大丈夫か?
・レベル④:コマツは期待通りだった。買ってよかった。
・レベル⑤:これからもコマツを買い続けたい。いちばん頼りになる。
・レベル⑥:コマツに何かしてあげたい。コマツと一緒に何かつくりたい。
・レベル⑦:コマツ無しではビジネスが成り立たない。コマツと一緒に成長したい。
率先垂範して社内外とのコミュニケーションをとられている点やコマツレベルを高めるための従業員へのアプローチが印象的です。ダントツは捨てることの裏返し。捨てる勇気は成功して初めて言えることかもしれませんが、そこを貫く姿が経済界のリーダーとして慕われる要因なのかなと感じます。