『言志四録 抄録』(訳者 渡邉五郎三郎)(〇)
何とも味わい深い一冊。まず体裁が素晴らしい。見た目から読む気がアップします。B5判サイズに毛筆体の大きな文字で言志四録の原文が書かれ、その横に訳文、古典を中心とした関連文が掲載されています。内容は、佐藤一斎(1772~1859年、美濃巖邑藩藩儒)が執筆した「言志録」「言志後録」「言志晩録」「言志耋録」の四緑から抜粋された172の言葉とその解説が記されています。考え方を律し自省する際に役立つ一冊だと思います。
(印象に残ったことば‥本書より)
〇三学戒
少なくして学べば 則ち 壮にして為す有り
壮にして学べば 則ち 老いて衰えず
老いて学べば 則ち 死して朽ちず
〇真に大志有る者は、よく小物を勤め、真に遠慮有る者は、細事をゆるがせにせず
【訳文】本当に大きな志を抱く者は、小さな事柄であっても一所懸命に勤め、また本当に遠大な考えを持っている者は、些細な事柄もゆるがせにしない。
〇志の立たざれば、終日読書に従事するとも、またただ是れ閑事のみ。故に学を為すは志を立つるよりかみなるはなし
【訳文】志を立てて目的がはっきりしていなければ、一日中読書をしたとしても、単なる暇つぶしにしかならない。だから、本当に学問をしようとするのであるならば、先ず志を立て目標をはっきりさせるより大切なことはないのである。
〇性は同じゅうして質は異なり。質の異なるは、教の由って設くる所なり。性の同じ期は、教の由って立つ所なり
【訳文】(儒学の立場では)人の本性は同一であり、気質が異なる。この気質が異なるところが教育の必要な理由であり、本性が同じであるところが教育が成り立つ理由である。
〇人を教うる者、要はすべからく其の志を責むべし。聒聒(かつかつ)として口にのぼすとも、益無きなり。
【訳文】人を教える者の最も肝腎なところは、志が堅固であるかどうかを見るべきであり、その他のことをただ口やかましく言っても、何ら益をもたらすものではない。
〇凡そ理到って人服せざれば、君子必ず自ら反りみる。我れ先ず服して、しかる後に人之に服す
【訳文】凡そ、総理が行き渡っていると思っているにも拘わらず、人が服従しないときには、君子は自ら反省し、先ず自分自身が納得服従すれば、その後に人は服従するものである。
〇一物を多くすれば斯に一事を多くし、一事を多くすれば斯に一累を多くす
【訳文】物が一つ増えれば、やることが一つ増える。やることが一つ増えると、わずらわしさも一つ増える。
〇一の字、積の字、甚だ畏る可し。善悪の幾も初一念に在りて、善悪の熟するも積累の後に在り
【訳文】「一」という字、「積」という字は、とりわけ畏れなくてはいけない。善や悪のきざしというものは、最初の一念から興るものであり、全や悪が固まり結果がでてくるのは、その初一念が積み重なったものであるからである。
〇晦(かい)に処る者は能く顕を見、顕に拠る者は晦(かい)を見ず
【訳文】暗い所にいる者は、明るい所をよく見ることが出来るが、明るい所にいる者は、暗い所を見ることができない。これは、その地位の上下の者にもあてはまる。
〇悔の字は、是れ善悪街頭の文字なり。君子は悔いて以って善に遷り、小人は悔いて以って悪を逐う。故に宜しく立志を以って之れを率いるべし。復た因循の弊無からんのみ。
【訳文】悔という字は、善と悪の分岐点となる文字である。立派な人物は悔いて善の方向へと進んでゆくが、つまらない人物は悔いてやけになり、かえって悪を追うようになる。だから、是非とも志を立て、この悔いの字を従えて、ぐずぐず悪臭を続けることから抜け出さねばならない。
いきなり『言志四録』を読むのはつらいという方はには、とてもとっつきやすい一冊だと思います。文字数は少なめですが、内容が深く、読み手が問われると言えるかもしれません。次は、全文を読んでみたくなりました。