『学習する組織』(ピーター・M・センゲ)(〇)
500ページを超える本書。過去、何度かの途中挫折がありましたが、今回は、学友が自社社員に本書を勧め、実践しているという話に刺激を受け、ようやく完読しました。
本書は、組織に必要な理論、ツール、手法や、実践を支えるための組織インフラの改革について提示されています。暗黙知を見える化し、伝承や改善を容易にすると同時に、暗黙知に潜む本質を失わない大切さを伝える良書です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇チームの中核的な学習能力
①志の醸成(自己マスタリー、共有ビジョン)
②内省的な会話の展開(メンタル・モデル、ダイアログ)
③複雑性の理解(システム思考)
〇学習する組織の5つの要素技術
①システム思考
パターンを明らかにして、それを効果的に変える方法を見つけるための概念的枠組み
②自己マスタリー
継続的に個人のビジョンを明確にし、それを深めること。エネルギーを集中させること。忍耐力を身につけること。現実を客観的に見ること。
③メンタル・モデル
どのように世界を理解し、どのように行動するかに影響を及ぼす、深くしみ込んだ前提、一般概念、想像やイメージ。
④共有ビジョン
創りだそうとする未来の共通像を掲げる力。ビジョンについて指図をすることは、例えそれが心からの行為であったとしても、逆効果である。
⑤チーム学習
チームのメンバーが前提を保留して本当の意味で共に考える能力。学習を阻害するチーム内の相互作用のパターンに気付く方法を学ぶこと。現代の組織における学習の基本単位は個人ではなくチーム。チームが学習できなければ、組織は学習しえない。
〇7つの学習障害
①「私の仕事は〇〇だから」
職務と「自分が何者であるか」を混同しがち。職業は何かと聞かれると、たいていの人は、自分が毎日どういう職務を行っているかを話すばかりで、自分の属する事業全体の目的については語らない。
②「悪いのはあちら」
物事がうまくいかない時に、自分以外の誰かや何かのせいにする傾向がある。「悪いのはあちら」症候群は、実は「私の仕事は〇〇だから」障害とそこから醸成される非システム的な世界観の副産物。通常「あちら」と「こちら」はともに、一つのシステムの側面。
③先制攻撃の幻想
外部の敵に先制して攻撃的な行動を起こすことは、「積極的になる」ことと本質的に同じだろうか?たいていの場合、積極的に見えても実は受け身。真の積極策は、私たち自身がどのように自身の問題を引き起こしているかを理解することから生まれる。
④出来事への執着
組織内で交わされる会話の大半は、出来事に関する懸念。人々の思考が短期的な出来事に支配されていると、組織内で根源から未来を創造する生成的学習を持続させることはできない。
⑤ゆでガエルの寓話
徐々に進行する脅威への不適応が非常に多い。ペースを落として、繰り返し最大の脅威をもたらす緩やかなプロセスに目を向けない限り、ゆでガエルの運命を避けることはできない。
⑥「経験から学ぶ」という妄想
最善の学習は経験を通じた学習なのだが、多くの場合、最も重要な意思決定がもたらす結果を私たちが直接的には経験できない(組織内の最も重大な意思決定は、システム全体に数年~数十年にわたって続く結果をもたらす)。1~2年以上のサイクルを持つ循環は、とりわけ見えにくく、それゆえ学ぶことも難しい。
⑦経営陣の神話
たいていの場合、企業内のチームは、縄張り争いに時間を費やし、自分たちが個人的に格好悪く見えることはすべて避け、あたかも全員がチームの全体戦略に従っているような振りをする。大きな疑問を抱えた人たちは公言を避け、共同決定は、全員が容認できるように骨抜きにされた妥協案か、一人の意見がグループに押し付けられた暗にすぎない。
〇システム思考の法則
①今日の問題は昨日の解決策から生まれる
自らが抱える問題の原因は、過去にとった他の問題への解決策を見るといい。
②強く押せば押すほど、システムが強く押し返して来る
良かれと思って行った介入が、その介入の利点を相殺するような反応をシステムから引き出す(相殺フィードバック)。
③挙動は悪くなる前に良くなる
相殺フィードバックには通常遅れが伴う。短期的な利益と長期的な不利益との間の時間的なズレ。
④安易な出口はたいてい元の場所への入り口に通ずる
気づくと、問題に対して見慣れた解決策を当てはめることに安らぎを覚え、自分が最もよく知っていることに固執する。
⑤治療が病気よりも手に負えないこともある
非システム的な解決策を適用すると、長期的には、まったく気がつかないうちに、いっそう多くの解決策を打つ必要性が高まる。
生態系から動物、組織まで、ほぼすべての自然のシステムには、本質的に最適な成長率というものがある。最適な成長率は、可能な限り最速の成長率よりもはるかに小さい。
⑦原因と結果は、時間的にも空間的にも近くにあるわけではない
多くの人がほとんどの場合、原因と結果は時間的にも空間的にも近くにあると思い込んでいる。
⑧小さな変化が大きな結果を生み出す可能性がある・・・が、最もレバレッジの高いところは往々にして最も分かりにくい
レバレッジの高い変化は、通常、システム内にいる大部分の参加者にとって非常に見えにくい。
⑨ケーキを持っていることもできるし、食べることもできる・・が、今すぐではない
翌月のことを考えるならどちらか一方を選ばなければならないかもしれないが、真のレバレッジは、長期に渡っていかに両方を改善できるかをみることにある。
⑩一頭のゾウを半分に分けても、二頭の小さなゾウにはならない
システム境界の原則と呼ばれる基本原理は、偏狭な組織の境界に制約されることなく、眼下の問題にとって最も重要な相互作用を観察しなければならない。
⑪誰も悪くはない
あなたも、他の誰かも、一つのシステムの一部。
などなど、組織は個の集まりであるが、組織のためといいつつ、個が優先しがちな現実。組織としての成長に視点をおいて、組織のことを考える。そんな切り口を得るのにとても多くの示唆を与えてくれる一冊でした。
- 作者: ピーター M センゲ,Peter M. Senge,枝廣淳子,小田理一郎,中小路佳代子
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2011/06/22
- メディア: 単行本
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