『具体と抽象』(細谷功)
人間の知性のほとんどは抽象化によって成立しているが、具体性が重視される「分かりやすさの時代」にはそれが退化していってしまう。そんな「抽象」を扱う方法を「具体」との対比で解説されています。ページ数も文章量もシンプルにまとめられているので、とても読みやすい一冊です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇抽象化を制するものは思考を制す
具体=わかりやすい、抽象=わかりにくい。具体=善、抽象=悪という印象はとんでもなく大きな誤解。具体と抽象の行き来を意識することで、間違いなく世界が変わって見えてくる。
〇法則とパターン認識
法則とは多数のものに一律の公式を適用でき、それに追って圧倒的に効率的に考えることを可能にするもの(フレミングの法則、慣性の法則、経験則、パターン認識・・)
〇往復運動~たとえ話の成否~
たとえ話の上手い人とは「具体→抽象→具体という往復運動による翻訳」に長けている人。「共通点と相違点」を適切につかんでいること。
〇本質~議論がかみ合うか~
抽象度のレベルが合っていない状態で議論していることに両者が気づいていないために、噛み合わない議論が後を絶たない。「どのレベルの話をしているのか」という視点が抜け落ちないように。抽象度が上がれば上がるほど、本質的な課題に迫っていく。
〇自由度
抽象は解釈の自由度が高いことを意味する。抽象概念は受け取る人によって好きなように解釈ができる。この自由度の高さは、具体派の人から見れば、「だからよくわからなくて困る」という否定的解釈になり、抽象派の人から見れば、「だから想像力を掻き立てて自分なりの味を出せる」と肯定ていきな解釈になる。
〇価値感~上流から下流へは質から量への転換~
上流の仕事(抽象レベル)から下流の仕事(具体レベル)へ移行していくに伴い、仕事をスムーズに進めるために必要な観点が変わっていく。
・上流:抽象度高い、全体把握が必須、個人勝負、少人数対応、創造性重視、多数決は効果なし・・
・下流:具体性高い、部分への分割可能、組織勝負、多人数対応、効率性重視、多数決が効果あり・・
〇量と質~分厚い資料か一枚の図か~
基本的に具体の世界は量重視であるのに対し、抽象の世界は質重視であるとともに、量が少なければ少ないほど、あるいはシンプルであればあるほど良いという世界。複雑で分厚い本には価値があるのが具体の世界、シンプルに研ぎ澄まされた一枚の図に価値があるのが中小の世界。
〇二者択一と二項対立
「賛成か反対か」「AかBか」といった二者択一に対し、「必然か偶然か」「一般か特殊か」「単純か複雑か」といった二項対立。抽象レベルで二項対立をとらえている人には、そこに考える視点が出てくる。これに対し、具体レベルのみでとらえている人は、「世の中そんなに簡単に二つに分けられない」となる。
〇ベクトル
やること(to do)は具体的で目に見えやすいので考えるのが比較的容易だが、あるべき姿(to be)は、将来のある時点での状態を表すので、想像と創造のための抽象化能力が必要になる。
〇アナロジー~パクリとアイデアの違い~
抽象化の目的は、「一を聞いて、十を知る」こと。アナロジーとは抽象化レベルの真似。具体レベルの真似は単なるパクリでも、抽象レベルで真似すれば斬新なアイデアとなる。身の回りの一見遠い世界のものをいかに抽象レベルで結び付けられるかが、創造的な発想力の根本。
〇バイアス
人間はどんなものにもパターンや関係性を見つけようとする習性があるので、意味のないランダムな者にもパターンや関係性を見つけようとするバイアスがかかる(抽象化バイアス)。
本書では随所に具体と抽象の例が三角形の図で表されており、パッと三角形の図の中でどこの話をしているのかという発想が身に付きやすいと思います。話をしていると、具体と抽象のどちらか意識しづらいこともありますが、本書でいうところ、具体か抽象かは相対的なものであるからこそ、図でイメージしていくととらえやすいと思いました。