著者は、日本経済学会会長も務められた、京都大学名誉教授。本書は、副題に「労働経済学の視点で捉えた選手、球団経営、リーグ経営」とあるように、プロ野球を労働経済学の観点からとらえた一冊です。「スポーツ×経済」の観点でプロ野球史を振り返り、大リーグと日本野球を比較してみましょうという感じの内容です。あまり経済学ぽくないせいか、タイトルのイメージほど固くはありません。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇新聞社の役割
夏の高校野球は朝日新聞社、春の高校野球は毎日新聞社主催ですが、遡れば、1934年に発足した「大日本東京野球クラブ」設立には読売新聞社が関わり、毎日新聞社は毎日オリオンズという球団オーナーに、新愛知新聞社が「名古屋」というプロ球団を設立。少し遅れてライバルの名古屋新聞社が「名古屋金鯱」という球団を設立。学生野球人気に乗じて野球記事を毎日、新聞に載せることによって国民の関心の高さを呼応し、新聞の販売部数増加が期待できた。
〇鉄道会社の役割
阪神、阪急、西武が球団を設立。観客を鉄道利用によって球場まで運べることによって運賃収入を期待した。
〇親子関係
オーナーはすべてが新聞社と鉄道会社であったことから、親会社とその子会社である球団の併存という日本の特色は設立当初から始まった。現在も12球団中11球団が企業名を用いている。企業の支配下にある球団はどうしても親会社の意向に左右される。広告宣伝の手段として親会社は球団を保有しているし、球団経営が赤字になったときは親会社の財政支援は当然(球団の収支だけで黒字を保っているのは、巨人・阪神・広島の3球団のみ)。球団の管理部門の人事は親会社がかなり影響力を有していると考えられる。
〇フランチャイズ制(主催者球団が収入を総取り)の経済学的視点
経済学では自由競争を信奉して独占を排するので、経済学の原理に反することをプロスポーツ界は実践していると言えなくもない。独占を容認すると、その企業(球団)が消費者・購入者(観戦者やグッズ購入者)に対して不当に高い価格を設定するので消費者が搾取される恐れがあり、独占は経済学上では排除されている。
唯一独占が容認されるのは、平均費用曲線が右下がりの場合(独占したほうが総費用が小さくなって効率的)。独占企業は自由に価格設定ができるので、不当に高い価格を設定しないように、公共部門が監視することが条件となっている。電力業界における経済産業省のような監視機関が、プロ野球、プロスポーツ界には明確に存在していないことが問題。
〇フランチャイズ制の経済問題
人気球団主催のゲームに観客が集まり、逆の場合には人が集まらなくなった。人気球団にお金が集まり、良い選手が獲得でき、ますます強くなり、人気が高まるという循環と逆の循環。ドラフト制の自由選択枠の利用、FA選手の獲得も収益力が高い球団が有利。
〇広島の経済学
広島は潜在力の高い選手を比較的安い契約金で発掘してから育て上げ、高い移籍金を受け入れて送り出してきた(金本、新井、シーツ、江藤・・・)。これらの行為は、経済学の立場からする企業倫理としては正解である。
〇トレード
球団の意向が優先され、選手の意向はほぼ考慮されないトレードは、経済学でいえば、パレート最適(誰かの便益を増やすためには、誰かの犠牲が必要)を目指すもの。
〇ドラフト制
ドラフト制の存在は経済学のいう平等性と効率性のトレードオフ関係からしても、容認される制度。球団間の選手の質の均等化に繋がるので、試合が接戦となるし、順位を巡って火花を散らす争いとなる。これは、球団の収入を上げるので効率化は高まったと解釈できる。
このほか、本書では、米大リーグとの比較、選手の年俸・第二の人生、球団収支の構成など、興味深い切り口が記載されています。球団収支が黒字なのは3球団で、ほとんどの球団が赤字でも親会社の広告宣伝媒体として存在しているという事実には驚きました。