『食糧と人類』(ルース・ドフリース)
歴史を振り返れば、争いの火種となってきた食糧。数万年前までは他の動物と同様に野生動植物の狩猟と採集にだけ頼っていた人類が、なぜん食糧生産に成功し、爆発的に生息数を増やすことができたのか。人間が生きるために必要な「食糧」を確保するために、自然界とどのようにかかわってきたのか、地球の歴史、人類の歴史を振り返る壮大な内容です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇進化プロセス
・まずは、空腹を満たすために最も手っ取り早く、簡単な方法で食料を手に入れようとする。
・やがてある時、食べられる植物を栽培したり、作物に必要な養分を補給したりするなど、自然界に手を加える方法が編み出される。それは、工夫の産物である場合も、偶然の賜物という場合もある。
・より多くの食料が行き渡ると徐々に人の数は増え、新天地へと生息の範囲を広げる。
・だが、どんなイノベーションも、いずれ壁に突き当たる。現状のままでは解決できない新しい要求が出てきたり、ひどい環境汚染を引き起こしたり、予想外の問題が生じたりする。食料が足りなくなるという不安が生まれ、危機感が募る。
・この絶体絶命の危機にさらされ、自然の恵みを活用する新たな方法が登場する。人類の知恵は方向転換を実現し、再び歯車が前へ前へと回り始める。より多くの食料がもたらされ、文明は人口増加に対応できるようになる。
・そしてある時、さらに大きな壁にぶち当たる。原因となるのは、単なる人口増加に加え、病気や旱魃など様々な災難。
・前進・破綻の危機・方向転換、このサイクルを繰り返すごとに、人口が増えて生息域が広がるので、試練はより厳しくなる。
・1サイクルごとに、新しい壁が立ちはだかる。しかしそのたびに、何千年もの時をかけて、人類は何とか切り抜けてきた。
・見かけは変わっても、今もこのサイクルは続いている。人類史が過去に経験した破綻の危機はほとんどの場合、飢餓と食料不足だった。
〇ジャガイモ
ジャガイモをとるようになって人の伸長は伸びた。寿命が延びたのも出生率が伸びたのも、ジャガイモの影響。1700年~1900年までのヨーロッパの人口増加のおよそ4分の1はジャガイモを食べたことによる影響であり、それ以外は健康状態と衛生環境の向上が関係しているという。ジャガイモの登場が、力強く歯車を回す転換期になった。
〇人が生息するための3要件
①安定した気候
②栄養分の循環
作物の成長には必須の栄養素がひとつでも足りなければ、他の栄養素が足りていたとしてもうまく育たない(本書では、リンについて詳述されています)
③多様な生命
〇近親交配の弊害
近縁の両親から生まれた子供はあまり丈夫でない。
〇雑種強勢の原則
トウモロコシ、牛、犬でも異系交配による個体は、同系交配による個体よりも成長が速く、丈夫で健康な傾向が強い。
〇農業害虫と遺伝子組み換え
バッタは世界最悪の農業害虫。遺伝的に類似した作物を大規模に栽培するモノカルチャーは、病害虫の被害が拡大する可能性が高まる。過去から学ぶとすれば、病害虫を避けるための遺伝子組み換えという新しい形態も、おそらく一時的な解決策にすぎないだろう。昆虫・菌類などあらゆる病害虫と人類との長い闘いは、これからもずっと続くだろう。
〇農業から都市生活へ
2007年5月、人が画期的なポイントを通過した。この日を境に都市居住者が多数派を占めるようになった。過半数が農業を営む状態から、都市暮らしへと逆転が起きた。少数が食料を作り、大多数の人々がそれを食べるという最新の取り組みは始まったばかり。
学者の中でも、人が創造力を発揮すれば天然資源を最大限に活用できるばかりか無限なると主張する方がいれば、食糧不足を予測する人もいる。果たして、人口が爆発的に増加していく中で、人間と自然の共存は可能なのか。そうした観点から、これまでの歴史を知り、問題意識を持つことができる一冊でした。