交渉プロフェッショナル(島田久仁彦)<2回目>
著者は、23歳から国際紛争調停官として紛争調停に携わる国際ネゴシエーター。交渉相手の警戒を説き真意を引き出すテクニック、決裂必至の国際会議で合意をつくる根回し術、当事者全員に利がある調停のキモとなる「戦わない」交渉哲学とは。コソボ軍事紛争調停からCOP10名古屋議定書採決など、国際交渉の舞台裏が垣間見れる一冊です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇失敗経験からの学び
「交渉においては<勝つこと>を目標にしてはいけない」。さまざまな合意のなかでも、結局長続きするのは、当事者同士が納得している合意だけ。どんな交渉でも表面の勝ちばかりを追っていると、その場はよくてもいつか必ずしっぺ返しがくる。大事なことは、互いに「一緒に結果を導き出した」という達成感を共有すること。一にも二にも、信頼関係の醸成と構築が必要。
〇師のアドバイス
「『ごめんなさい』『お願いします』と人に頭を下げるのは、どっちもタダだ。それでその場をしのげたり、得たい情報が得られたりするのなら、これほどいいことはないじゃないか。だから、無駄なプライドは捨てなさい」
〇師のリーダーシップ術
「人にセンス・オブ・オーナーシップを持たせる」(担当した仕事が自分自身の仕事であるという自覚を持たせる)
〇相手と同じ目線に立つ
「こいつとは話ができる」と思ってもらわなくてはいけない。「自分は相手と同じ目線に立っている」ということを態度で示す。一緒に地べたに座り、一緒に食べ、彼らの話に耳を傾ける。
〇オウム返し
交渉や調停のプロは、相手の主張を自分の言葉を使って整理し再提示する。「自分の言葉で」というのがポイント。相手が気づかないくらい少しずつこちらの主張も反映していくことで、こちらが想定する落としどころに誘導することができる。
〇言語習得法
現地の飲み屋やバーに行き、一般の人々が交わす会話に耳を澄まして、どういう言葉でしゃべっているのかじっと聞き取る。いい意味のスラング、悪い意味のスラングを知っていれば、相手の感情の動きが正確に分かる。公園など子供が集まる場所に行って、紙を取り出して何か書く。子供に見せると必ず「それ、何?」と聞いてくる。これで、「それ、何?」という言葉を覚える。次に聞き役になっていろいろなものを指して、「それ、何?」と聞き、どんどん単語をストックしていく。
〇パーソナル情報+未来像
かたくなな交渉相手の心をほぐすのにとりわけ効果的なのは、ハマっている趣味や大好きなアーティストなど、相手のツボを探すこと。パーソナル情報に未来像を加えると有効。「あなたはたしか、〇〇のご出身ですよね。そろそろあそこにもスミレの花が咲くころでしょうか。またあそこに戻れるように、早くこの案件を片付けましょうよ」
〇パッケージ交渉
たいてい本当にクリティカルなイシューは10個のうちせいぜい2つか3つ。「この3つのために、あなたはこれまでできた7つの合意を全部蹴飛ばすわけですね?」「この3つで揉めることに、それだけの価値があるのですか?」「この交渉自体が終わります。ということは、あなたが欲しがっていた3番目と5番目のイシューも飛びますね」。交渉決裂が相手にとっても不利益になることを示唆する。
〇合意可能なものから決める
複数のイシューがある場合、合意できるものから合意する。これが交渉の鉄則。
〇相手の面子
交渉相手にも面子というものがある。例えば、議事録にしておけば、それを本国に帰って、大統領や大臣に見せて、自分が反対したことを主張できる。そうやって相手の面子が立つような提案を考え、舞台裏で持ちかけ、落としどころを決める。
〇権限移譲
どんなに優秀な交渉官が交渉しても、権限がなければ重要な決定をスピーディーに行うことはできません。意思決定が遅くなってしまうのには、一つのイシューについて複数の省庁から「代表」が来ていて、どうしても「船頭多くして船山に上がる」となってしまう。
長年にわたり、国際交渉の場で多くの実績を残されてきた著者が、今年のグロービス経営大学院のあすか会議に来られます。運良く、ナイトセッションで同じテーブルでお話しをお聞きできる機会に恵まることになりました。こういう方に質問ができるまたとない機会。生のオーラ、威圧感を感じてみたいと思います。